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■100 / 19階層)  "紅い魔鋼"――◇十話◆中
□投稿者/ サム -(2004/12/20(Mon) 16:59:28)
     ◇ 第十話 『嵐の前の静けさ』中編◆



    完璧だと思われた襲撃は,相棒が仕掛けられた罠にかかってしまったときには既に崩されていた。


     ▽


    今回の演習訓練のために編成された(ファング)小隊,その2番チーム。
    構成メンバーは自分――クレイと相棒のロディの二人。
    任務は,サバイバル訓練の"追い込み"。
    逃げ回る訓練生たちを戦いに引きずり込むのが任務だ。巧みに逃げ回る彼らを捜索し,襲撃をかけるのが託された使命。

    数チーム撃破し終え,二人は次のターゲットを発見した。
    夜に差し掛かる時間。月は出ているが三日月と光源には乏しい。
    しかし襲撃をかけるには持って来いの状況だ。

    二人は実行することにした。

     ▽

    二手に分かれての襲撃。
    一方は囮,その隙にもう一方が敵チームを背後から襲うと言う常套手段。
    初撃で慌てた訓練生を制圧することは容易いだろうと楽観している。今までがそうだったのだからしょうがない。

    ロディとわかれ,クレイは既に目標(ターゲット)を視界に収めて高速且つ迅速,ほぼ無音で接近している所だった。


    途端,向こうで一瞬の光爆。
    次いで響き渡るロディの悲鳴。


    何が起こった…!?

    瞬間の混乱と同時にクレイは前方を移動する二つの影(・・・・)に向い攻撃を仕掛ける。
    本来ならば,襲撃が失敗した時点で行動を停止し状況をみることのほうが重要なのだろうが,クレイは聊か冷静さに欠けていた。

    二人くらいならば――!

    ソレがいけなかった。


    残り数mまで接近,影の二人はこちらには気づいていない。
    ここまで接近すれば,スピード差でこちらの攻撃のほうが魔法駆動よりも速く敵に届く。

    もらった――,!?


    衝撃・反転。
    視界が180度回転し,さらにもう反転――つまりは一回点した。

    攻撃に繰り出した抜き手――それを捕まれ,手首を支点に投げられたのだとわかった時には,地面に投げ出された。


    衝撃。
    詰まる息。
    地面に投げ出され,そのまま数m転がる事で衝撃を逃がす。


    おかしい、こちらに反応できる筈がないのに――!?

    体を起こし,早急に呼吸を整える。

    が。


    闇に佇む二つの影。

    三日月の晩。
    その光源が乏しいせいか,逆光になっているせいか――二つの影の顔は見えない。
    が,それが女性だと言うことはシルエットから伺えた。
    その二つの影は,軍人である自分達の襲撃を察知し迎撃して見せた…そして今。
    ゆっくり、ゆっくりとこちらへ向かって歩いてくる。
    二つの気配が,ニコリと嘲笑し(わらっ)た。
    確かに感じた。

    そして――
    自分がここで終わりだということを直感的に悟る。


    ロディは無事だろうか――それがクレイの最後の意識になった。



     ▽  △



    『索敵どうなってる!?』
    『わからん,何処から攻撃して来るんだ…うあっ!』
    『どうした,α2,α3応答しろ!』
    『敵,敵が後ろに!もうだめだ…!』
    『こちらα5,囲まれてる! 援軍は,援軍まだか!?』


    通信を傍受して聴く限りでは周囲は混乱しまくっているらしい。
    辺りは日が落ち、夜の闇が覆いつつある。
    北側森近辺に近いこの周辺,辺りは合同演習訓練のサバイバル(生き残り)戦が繰り広げられ,阿鼻叫喚の地獄と化していた。
    時折飛び交う火の玉や雷撃,緑光は魔法の残光だ。
    戦闘も起こっているらしい。
    戦闘の勝利条件は相手のIDを奪うこと。

    つまりは争奪戦だった。


     △


    「…東区仮座標AGFE2547ポイントで負傷者発生。救護班は急行せよ」
    『救護班T424了解(ラジャー)。これより急行する』

    運営本部は結構な賑わいを見せていた。
    通信装置から響く救援コールは結構多い。模擬訓練とは言っても戦闘には代わりないのだ。
    加えて夜が迫る現在の時間帯は景観の変化がかなり大きい。一番怪我人の増える時間帯域だ。
    今も救護班が現場へと向かった。ここ30分で4回目,結構な回数になる。

    全参加者900名弱。
    その全員が班を組んだと仮定するならば,最低でも前衛,後衛,支援の3人。数名で1チーム辺りの人数は平均で4〜5名。
    仮に5名で1チームを構成しているとするならば,900÷5=180。180近くのチームが戦闘をしている事になる。

    IDを奪われたチームは一度本部に帰投し若干の休憩と手当ての後,仮IDをつけて再出撃になる。
    つまるところ終わりはない(・・・・・・)


    また,教官の連れてきた部隊からも数チーム潜入している。
    彼等は新兵で,この時期に行われる訓練としては良い下地にもなる。
    無論本部で応答している後方支援要員たちも皆軍に入隊したばかりの新兵達だ。
    ここで実戦同様の応答をする事で経験を補い,次の訓練への足がかりにして行く。
    もしくは,負傷などで戦線を遠ざかっていた連中が勘を取り戻すのには良い機会になっていた。



    『本部,こちら(ファング)2…応答願う』
    「こちら本部,どうした?」

    通信士の青年は訝しく思いながらも答える。(ファング)は潜入中の軍側のチームだ。
    1チーム2名で構成されており,今回の訓練では"戦いを避けて逃げ回っているチーム"を検討して"追いこみ"を掛けているはずだ。

    (ファング)2、行動不能。至急救援を頼む』
    「…なに、事故か?」
    『いや。トラップに引っかかった。…こんな性悪なトラップなんて気づくかよ』

    何やら無線越しに吐き捨てる牙2のメンバー。
    彼らは新兵とは言ってもそれなりに訓練を積んでいるはずだ。その彼らがトラップに引っかかったということは――

    「熟練組みか?」
    『…いや。俺たちと大して変わらん位だった。恐らく――あれは学院の奴らだ』

    納得した。
    学院の生徒――恐らく戦技科の学生たちの部隊だろう。
    彼らは王国全土でもトップクラスのエリート集団、こちらの新兵の追跡を感知し迎撃するすべを考案していたとしても不思議ではない。

    「人数と構成、および装備などで報告すべき点は。」

    聞かねばならないのは、次につなげるための情報だ。これはいかなる場合でも適用される。
    軍事教練でならう初歩中の初歩。情報をより多く持っている者が戦闘を支配する。

    『人数は3,影から推測するに男女比は1:2。装備は不明。報告すべき点は――』

    口篭もる。
    何か言い辛いことがあるのだろうか――。そう言えばトラップに引っかかったと言っていたが,チーム二人が同時にかかるわけもない。
    なら,後一人は…?

    「おい,そう言えばもう一人はどうした?」
    『……。トラップで行動不能になったのは俺だけだ。クレイは――』

    クレイとは相方の名前なのだろう。
    …いやな予感がする。

    『――迎撃されて吊るされた(・・・・・・・・・)。奴らはヤバイ…救援を頼む。通信終了(オーヴァー)

    それを最後に牙2からの通信は切れた。
    いつのまにか静まり返っていた本部が――


    その雰囲気が。


    熱く,燃え始めた。



     ▽  △
     
     ▼ ▽


    日が落ちる前に食事をとった私達三人は,目的地――ランディ―ル広原の一角にある英雄と邪竜の決戦場――史跡を目指す事にした。

    史跡。
    クレーターを中心として,そのほぼ円周上に点在する5つの鉄柱。表面は短時間のうちに高温に曝されたのか,内側を向いている方向だけが溶解し滑らかになっている。
    鉄柱は5つ――しかし,本来は6本で完成系を見るはずだというのが通説だ。
    5本の鉄柱は,最後の一本が在れば正六角刑を形作るように配置されているからだ。
    失われた最後の一本の場所には,代わりに巨大な亀裂がその姿を見せている。鉄柱の用途は不明。大規模魔導陣の可能性もなくはないが,それを形成する主要物質である魔鋼(ミスリル)の存在したという痕跡は残っていない。
    つまり鉄柱の用途は不明。1000年前にこの場で散った英雄ランディ―ルのみが知る事実。
    クレーターを中心として配置された5本の鉄柱,そして巨大な亀裂。

    これらをすべて含めて"史跡"と呼ばれている。


     △


    現在史跡周辺に展開している組織がある。

    彼らは魔鋼錬金協会。

    その前身は古くから存在する秘密結社(フリーメーソン)であり、現在は王国経済の主要生産品魔鋼(ミスリル)管理する公的機関だ。
    魔鋼に精通しており,その生成法,物質特性,及ぼす効果,影響に関する洞察は深い。
    それと刻印技術においては右に出るものはいない。
    彼ら…魔鋼を扱うファルナの魔法使いたちは,皆等しく優秀な錬金術士(アルケミスト)達なのだ。

    その中でも学院と並ぶほどの知能集団(シンクタンク)が,彼ら魔鋼錬金協会の現在の実態だ。
    1000年前の組織と何が違うかというと――意識が違った。
    現在の彼ら(魔鋼錬金協会)は,倫理を無視するようなことは一切していない。
    以降1000年。
    彼らは王国に益することはしても,決して損をなすような結果を出したことはない。

    その最たる例が,50年前の第一次世界恐慌の際に提供した魔鋼生産技術。
    これによって王国の国際的な地位は一気に向上し,世界の主要国として世界政治に参加する王国として名を広める結果になった。
    それゆえの魔鋼錬金協会の公的機関化。

    少なくとも,疑うべきところはないように思える。
    この1000年,彼らはひたすらに研究し,国益になる研究を多数発表してきた。
    しかし――

    今回は,何かしら違う気がしてならなかった。
    歴史にのこる数々の魔鋼錬金協会の研究成果…それとは違った雰囲気を"ここ"では感じる。
    はっきりとした実感には至らずとも,不穏な空気を感じてならない。
    それを、"私の直感"が感じ取っている。


    何かが起こる。と。


     ▼ ▽
     

    「敵部隊接近中…,左右からフォーメーションC-3。装備はA-3DTR(最新ARMS)だ…しかしあれは欠陥品だったな。」
    『詳細は?』

    俺はA-3DTR…最近市場に出回り始めた銃型ARMS(魔法駆動媒体)のスペックと欠陥点を思い出す。
    あれは――

    「性能的には問題ないんだが,いささか攻撃が直線的になりすぎてる。後,防御概念が紙だから突破は易いはずだ」
    『了解』
    『承知しましたわ』

    俺――ケイン・アーノルドはここ一ヶ月で自作強化した複合魔法駆動機関(コンポジット・ドライブエンジン)の装備,多目的総合情報バイザーの暗視ゴーグルを通して周囲の状況を確認していた。
    前衛と後衛のミコトとウィリティアは前線だ。遭遇した敵の排除を行ってる。

    今遭遇した敵は,どうやらミリタリーオタク…リディルにある数多くの軍事戦闘同好会(コンバットマニア)のひとつだ。
    装備ばっかり最新のものが揃えられていて,まぁ見る分には俺は飽きないのだが。

    「身体強化を確認。タイミングを合わせて仕掛けてくるぞ」

    銃型ARMSの特性を考えると,自然とヤツラのとる行動が読めてくるのは修理工の俺としては当然の事だ。
    あれは攻撃特化の魔法駆動媒体(ARMS)
    確かに威力としては申し分ない一品では在るが,所詮1アクションしか保たない。防御魔法を展開するには概念が足りない。
    ゆえに―――

    「ご、ごほぅ!」
    「ぎゃああ!おたすけーー」
    「こ、ころさないでしにたくないしにたくない・・」


    こうなるわけだ。


     ▼


    周囲を包囲したつもりのオタク共が攻撃を開始した。
    ケイの言ったとおり,ヤツラの攻撃はマニュアル一辺倒の面白みのない物で,3対2という状況を有利に使えていない。
    一人は囮,残りの二人で一人を確実につぶす戦法でかかってきた。
    無難といえば無難だけど,これが通用するのは実力的に差がない場合のみ。

    「オタクと戦技科をいっしょにするな!」

    叫び,分断しようと接近してきた一人――私の方が強そうに見えたのかな…――を迎撃。
    やつは手前3mから発砲・同時に攻撃魔法駆動。炎性弾の投射。

    二回首を左右に捻って避けた。
    認識強化してるのだ,銃弾では当たらない。遅い魔法駆動でも当たるはずがない。

    「へ?」

    間抜けな声が聞こえる。
    しかし私はかまわず――腰の短剣を逆手に持ち,接敵・短剣の柄で鳩尾にきつい一撃を見舞う。

    それで敵は倒れた。


     ▼


    敵は二人。
    どちらも高速で迫ってきた。
    装備は充実しているらしく,恐らく暗視ゴーグルのみを格納した魔法駆動機関(ドライブエンジン)を装備していると予測する。

    ウィリティアはゆったりと体術の型を構え,とりあえず待つ。
    攻撃が直線的過ぎる。"銃"という攻撃属性がそうであるとは言っても,こちらも最低限の認識強化の補助魔法はかけている。
    銃弾など当たるわけがない。
    ちらっとみたミコトの戦闘のように首を捻れば交わせる程度でしかない。

    ――なんで銃なんて使い勝手の悪い武器を使うんでしょう?

    それだったら杖型の方がよっぽど趣と実用性が在りますのに――と場違いなことを考えつつ。

    敵が二人,夜の上空へと飛翔するのを確認。
    上空からの急襲は襲撃の基本。だが,この場合は襲撃とは言えない。
    むしろこちらの迎撃の機会だ。

    それをただただ見届けて――

    譲り受けた指輪型ドライブエンジンに魔力が伝わり,一瞬だけ手首部分の装甲外殻――篭手の外観を構成する魔力格子のみを仮想駆動(エミュレート)


    「駆動:簡易式:中範囲:風撃」


    魔法稼動。


    それで終わった。


    高速で魔法が駆動する。
    ウィリティアを中心とする半径10mで暴風が吹き荒れた。
    飛び上がった二人は攻撃に意識を集中していたせいか,吹き荒れる風に体を攫われ派手に地面に叩きつけられた。

    うめく二人組みに殊更ゆっくりと近づくウィリティア。
    その表情には微笑を浮かべつつ――

    「もう,おわりですの?」


     ▼


    「やれやれ…」

    俺は一息ついた。
    先ほど軍の追い込み部隊の二人を撃退してからやけに攻撃の度合いが増している気がする。
    奪い取った軍人のIDを見て,もう一度ため息。

    とりあえず今回の戦闘も無難に乗り切った。
    下ではミコトとウィリティアが掃討にかかっている。
    ミリタリーオタクの後方支援(バックアップ)も容易に方がついたようだ。
    意気揚揚とこちらへ向かってくる。

    「お疲れさん」

    ねぎらいの言葉を掛けるくらいは俺だってする。
    まぁ何もしてないしな。

    「どうって事ないわよ」
    「手応えがありませんわね」

    しれっと答える二人。
    しかしやはり,その手際はいい。
    意外だと思ったのはウィリティアの戦闘力の高さだ。これほどとは。

    「ウィリティアがここまで強いなんてなぁ」

    俺の言葉に,彼女は あら,と微笑む。

    「わたくし,まだ全然本気を出してはいませんわよ?」
    「…なんですと?」

    耳を疑う。
    あれで本気ではないと。

    先程の風系範囲魔法はかなりの高速駆動だ。俺の全力に匹敵する制御だとおもった。
    それを苦もなくこなしたウィリティアには,確かに余裕は見て取れたが――

    「本気のウィリティアは,私と同じ位強いわよ?」
    「…なぬ。」

    ミコトの何気ない一言に俺はフリーズ。
    ウィリティアは変わらぬ笑みを絶やさない。コメントもしないと言うことは,それが事実だということか。

    「果たして,ここに俺がいる意味ってあるのかね?」
    「あるわよ」
    「当然ですわ」

    思わず自分の不甲斐なさに呟いた一言に,ミコトとウィリティアは即座に返してきた。
    が,どうにも信じられん。

    「ケイがいなかったら,さっきの軍の二人の接近に気づかなかったし,結構危なかったわ。」
    「それに,ケインの設置したトラップが功を奏して楽に彼らを排除することができたのですし」

    そうなのだろうか。
    うーむ。

    「悩むことなんてないよ。…その,私が選んだんだし,ケイは必要なの」
    「悩むことなんてありませんわ,ケインはすばらしい成果を上げてます。…わたくしが見込んだだけの事はありますわ」

    もじもじと。
    だが,お互いの言葉に反応して即座に睨み合いを開始する。

    いや,いい加減それはいいから。
    それに,そんなに俺を買かぶらなくてもいいんだが。

    「とりあえず」

    俺の一言に,二人の意識がそれた。

    「これからどうする?」
    「そうね。なんか襲撃が頻繁になってきてる気がするし…」
    「そうですね。」

    実はミリオタの襲撃は,前回の遭遇戦からまだそれほど経っていない。
    気づかれないようにと極力光学系の魔法は使っていないのだが,先ほどの炎性弾の魔法でこちらで動きがあった事はばれているだろう。
    この後襲撃,もしくは遭遇戦になる確率は結構高い。
    となると,これに対処する最適の策は――


    「罠かな」
    「罠だね」
    「罠ですわね」


    そう言うことだった。



     ▽  △



    数分後。
    三人の学院生との交戦があった区域に"後続部隊"が到着する。
    すでに"敵三名"はその場を去った後であり,向かう先を特定するために付近の探索が始まった。

    周辺はちょっとした丘の下。
    上空には三日月が出ているが,光源としては乏しい。
    本来ならば暗視装置をつけ姿を晒すことなく痕跡を捜索をしたいのだが,今回は訓練だ。

    "お前等を捜しているぞ?"

    と言う威圧を篭める意味で,光源をつかった探索が行われることになっていた。
    が,それは失敗だった。

    しかも結構致命的な。


     △


    ――光爆。

    丘を二つほど戻った地点で"仕掛けた罠"が作動した。

    「おー」

    光学系の設置駆動式。
    地面に書いた駆動式に魔力反応流体金属(エーテル)を垂らし,駆動式として効果を持たせる。
    発動のための魔力は魔力誘導結線(マナライン)を少々細工し,"周囲の状況変化"にあわせて魔力を供給すると言う駆動式を編んでおいた。

    "周囲の状況"の初期設定値は"暗闇"と"熱量"。
    明るくなったり,人数が増えて設定した領域の熱量が一定を超えたりすると設置した"複数の"駆動式が連鎖反応。
    先程の光爆につながるわけだ。


    と言っても,さすがに殺傷能力を持つものではない。
    精々目くらまし程度の効果しかもたらすことはないのだが…

    「しかし,あの連鎖光爆だと」
    「うん、確実に前後不覚になるね」

    その程度ですめばいいが,と言うのが正直なところだ。
    多少汗をたらしながら半眼でその光の影を見る俺とミコト。
    コメントは的確だが,どこか棒読みなのはしょうがない。

    強いストロボ光を目の前で瞬時に複数回たかれてみればわかる。
    光と闇の点滅は,情報の7割を取り入れる機関――視覚にダイレクトに伝わる。
    連鎖する光と闇の切り替えは眩暈・吐き気・失神をもたらす要素となりうる。
    それを狙っていたとは言っても――


    「ちょっと…やりすぎたでしょうか?」


    何故か光爆を見つつ微笑むウィリティア。
    効果の発案者は然程気にしていないみたいだ。


     △


    「うわわ,やるねー」

    三人の進む丘からちょっと離れた地点。
    ミスティカ・レン(マッド・スピード・レディは)はその光景を見ていた。
    すさまじい光が瞬間で8回瞬いた。付近に居たとしたらダメージは大きそうだ。

    「先輩もとことん容赦なくなってきたっぽい…昔の反動かな」

    ちょっと冷や汗を垂らす。
    おもしろ半分でからかうと痛い目にあいそうな感じ。気をつけよう。

    カレンのEX特性は加速力。
    その性能は夜間という状況と相俟ってこの周辺一帯を彼女の領域に仕立て上げている。
    どこに居ても気づかれずに高速で移動可能な彼女の力は,隠密行動に特化していた。

    それ故に,朝から気づかれずにずーーっと3人をマークしつづけている。
    無論ご飯などの携帯食も完備していて抜かりはない。

    「これはこれで寂しいけど…」

    レーションを齧りながら呟く。
    暗視ゴーグルの先に居る三人の影は、遠回りながらも着実に"史跡"に近づいている。


    「さてさて。何が待っていますやら…」


    カレンも行動を再開した。



     △


     ▽  ▼



    「実験開始。」

    史跡に設置されている魔鋼錬金協会の仮設本部で命令がくだされた。
    指揮を取るのは長身痩躯の老人。その瞳は鋭い眼光を放っている。

    彼は探求者ルアニク・ドートン。
    現魔鋼錬金協会長であり,公的機関として立ち上がった初期のメンバーの最後の一人。
    そして――また,彼は最後の錬金術師(フリーメーソン)でもある。


    「実験開始します」
    「電力供給開始」
    「古代都市との情報接続(リンク)開始」
    「衛星通信網,開きます。」

    オペレータの確認と同時に作業開始。
    発電機の回る低い駆動音が周辺を覆う。
    同時に,仮設移動式本部に設置されているスーパーコンピュータに光が灯った。

    次々に灯るモニター。

    セットアップされるOSと,起動する各プログラム。
    これらはすべて過去の古代都市から復元された科学技術の一端だ。

    外部に設置されているアンテナから,虚空へ向けてコマンドが発信される。
    衛星で受信したコマンドはそのまま反転し地表へ向けて再送信。
    ファルナ郊外の魔鋼錬金協会管理の各種施設の中に極秘に設置されている衛星アンテナで受信し,実線を持って地下に埋もれる都市のメインコンピュータに送られる。
    コマンドを受け取った古代都市のメインコンピュータは,そのコマンドにしたがってデータを検索・再送信。
    逆の経路をたどってこのランディ―ル広原の仮設本部のスーパーコンピュータで処理するまでにかかった時間は,ほんのナノセカンド(10の9乗分の1秒)

    「データ受信完了。モニターに表示開始」

    応答と同時にモニターに映し出されたのは,遺産がもたらす科学技術――現在のこの周辺のエネルギー変位を示す数値を画像化したものだ。

    「第二段階,開始」
    「第二段階開始します。」

    クレーターの内円部にソーラーパネルのように設置された魔鋼(ミスリル)
    それら一つ一つに導通している魔力線(マナライン)を介し,中央制御装置に設置された"杖"から魔力が供給され始める(・・・・・・・・・・)
    膨大な魔力は一瞬ですべての魔鋼を活性化。刻印された駆動式を稼動させ始めた。

    「第二段階成功。」
    「よろしい」

    ルアニクはその光景を見ながら,しかし瞳の眼光を緩めない。
    衛星からの状況観測値を報告させる。

    「エネルギー場に変動は」
    「現在,初期値にて安定しています」

    魔力のみの反応では周辺のエネルギーへの直接への干渉はない。
    それはわかっている。
    駆動式を稼動させ,事象への干渉――現象として発生させなければ意味がないことは。

    「第三段階,開始」
    「…第三段階,開始します」


    オペレーターの手元が忙しくなり始めた。
    さまざまな各種コマンドを打ち込み始める。それは衛星へのコマンドではなく――

    「魔鋼活性化開始。」
    「駆動式展開開始。」
    「状況シミュレート開始。」
    「魔導陣と衛星との通信回線の接続(リンク)開始。」

    周辺の状況に変化を起こす(・・・)ための各種操作。
    それは――


    「情報統合開始,魔導陣中央制御装置と衛星へのリンクを試行。」


    惑星監視衛星の蓄えてきた過去1000年のエネルギー変動の状況を,展開した駆動式を通し現象としてシミュレートする魔導陣だった。




    ―――・試行開始 ・・・・・成功(ヒット)




    「試行成功。…限定領域情報再現機構(シミュレート・ドライバ),作動開始します。」




    その言葉に,ルアニク(錬金術師)は深く頷いた。



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Nomal "紅い魔鋼"――◇序章◆ / サム (04/11/18(Thu) 07:17) #52
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                        └Nomal "紅い魔鋼"――◇八話◆中 / サム (04/11/28(Sun) 21:55) #83
                          └Nomal "紅い魔鋼"――◇八話◆後 / サム (04/11/29(Mon) 21:51) #86
                            └Nomal "紅い魔鋼"――◇九話◆前 / サム (04/11/30(Tue) 21:53) #87
                              └Nomal "紅い魔鋼"――◇九話◆中 / サム (04/12/01(Wed) 21:58) #88
                                └Nomal "紅い魔鋼"――◇九話◆後 / サム (04/12/02(Thu) 22:02) #89
                                  └Nomal "紅い魔鋼"――◇十話◆前編 / サム (04/12/18(Sat) 08:57) #98
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