Release 0シルフェニアRiverside Hole

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

■60 / 3階層)  "紅い魔鋼"――◇ニ話◆
□投稿者/ サム -(2004/11/19(Fri) 20:59:45)
     ◇ 第二話『若き魔鋼技師』 ◆

    魔鋼技師主な特性は2種類に類別される。
    一方は技術者(エンジニア)
    ミスリルを製錬し,駆動式を組み合わせ,魔法駆動機関という1個の作品を造る。

    もう一方は芸術家(アーティスト)
    魔法使い達が考案した駆動式を,実際にミスリルに刻印する彫刻家だ。
    極限られたスペースに,自分の技量ので 式の意味・性能を,損ねることなく刻印する者。
    彼等のそれは,技術と言うよりは最早芸術の域に達している。

     ▽

    俺は魔鋼技科に所属する三期過程生だ。
    成績は余り良くない。
    刻印技術も魔法駆動機関造りもいまいちな感じだ。
    最先端で日々新しい技術の開発を行っているのだろう王国工房や各ドライブエンジンメーカーには縁はないだろう。


    しかし,そんな俺の唯一の特技が魔法駆動機関(ドライブエンジン)の整備や修理,そして改良だ。
    コレに関しては自信を持って宣言できる。俺はやれる,と。

    学院に入学し魔鋼技科に入り,様々な知識や知らなかった技術,そして"道具"自体を,設計から具体的に造るまでの過程とそのコンセプトの組み方を学んだ。
    それは過去の作品を例としての説明だったとしても,基本的な考え方は全てに共通する。
    だからこそ,それは俺にとって新境地だった。

    そこからは応用力がものを言う。
    同じ魔鋼技科のどいつよりも経験だけは勝っていた俺は,自ら実習室に篭って色々試してきた。
    一般には不可能だと言われている,DE(ドライブエンジン)の分解整備もやってのけた。
    仕組みさえ理解し,道具(ツール)が揃っているならできるレベルだと言うのが感想だ。
    教授方に言わせれば『今それをできるのは,君だけだ』と言う事らしいが。


     ▼


    特殊金属 魔鋼――ミスリル。
    その特性は,魔力に反応し様々な作用を生むことにある。
    魔力反応流体金属(エーテル)と駆動式を組み込むことで,それはほぼ万能な道具となりうる。


    ミスリルは魔力に反応し作用を生む。
    生まれる作用は,駆動式によって方向付けされる。
    駆動式は刻印技術で刻まれる。


    この関係――魔法発生の原理と技術を提唱し,世に広めたのは一人の賢者。
    "起源"と言う名を持つ者だったらしい。
    伝承を伝える書簡には,闇が世界を覆う時代…それを退けた者,とよく冒頭で書かれている。

    彼が,もしくは彼女かもしれないが,その人物がもたらしたものは,紛れもなくこの文明を創った。
    それは,俺には偉大な事だと思える。


     ▼


    野外演習を約一月後に控えたここ数日。
    俺はミコトにつれられて軍事教練――戦闘指導を受けていた。
    何でも,後方支援要員でも最低限の戦闘は行えるようにしておきたいとの発言。待てコラ。


    ズダン!

    ミコトの神速の踏込みから繰り出された突きをまともに食らい,俺は吹っ飛んだ。
    空中を飛ぶ経験は初めてではないが…飛ばされるのは初めてだ。馬鹿力め。

    「なにやってんのさ、受身取らなきゃ!」
    「アホかお前はっ!? 空中吹っ飛んでるのに受身なんかできるかっ」

    衝撃吸収の駆動式を組みこんだライトプロテクターはその衝撃を殺しきれず,腰部に接続されているミスリル(依り代)にヒビが入った。
    またか…

    「まて,一体これで何個目だ…?」

    簡易型とはいえ,自動拳銃の衝撃すら吸収するこの駆動式は,ミコトの攻撃を数回受けただけで駆動式を刻んだミスリル自体を物理的に崩壊させていた。
    これは何と言って良いのか…俺を殺すつもりだろうか。
    隅に転がっているミスリルの破片はおおよそ8つ分。そろそろ換えのストックが切れつつある。

    「あのな。」
    「ん,なに?」

    俺の苦労と心労と悲壮と悲観を知ってか知らずか…恐らく知ってるのだろうが,ミコトは極めて機嫌が良い。
    爽やかで晴れやかで清清しい笑みだ。…こちらは最悪な気分なのだが。

    「思いっきり殴れるっていいよねぇ」

    言いやがった。本音いいやがったよコイツ!

    「てめ、俺を何度殺せば気が済むんだ!?」
    「大丈夫。ケイ生きてるじゃん」
    「あの隅を見ろ!」

    ビシッと俺が指差す方向には,砕けたミスリルの板が数枚転がっている。さっきまでの俺の生命線だ。切れまくっている。
    ミコトははてな?と首をかしげた。

    「…あれがどうしたの?」
    「アレが俺の命のかわりだ!」

    ひーふーみーと指折り数えるミコトは,得心言った,とばかりに頷く。

    「うん。八回は死んでるね。」
    「ね、じゃねーだろが!」

    その間にも,俺は加工した換えのチェンバー(予備"命"槽)を入れ替える。
    残り後5枚。

    「うん。判ってるよ…後五回はだいじょうぶだね」
    「ぜんぜん判ってねぇ…くっ,やるしかないのか!」

    絶望的なまでにはぐらかすミコト。
    しっかりとこっちの行動を把握している発言と共に,奴は態勢を構える。攻撃の構えを。

    ならば。
    俺は命を繋げるための反撃行動を取るしかない。勿論さっきまでも取っていたが,今はあの時以上の力がほしい。
    生き残るために。
    俺は――今。

    奴に最大以上の力でもって相対した――



    無論,戦技科と魔鋼技科では話になるはずもなく,残った"6つ"の生命線を,0.5だけ残して訓練は終わった。


     ▽  △


    …目を開けると,薄汚れた広い天井が見える。
    ゆっくりと体を起こし,俺は周りを見まわした。

    どうやら合同訓練室。
    さっきまで殴り合っていた…いや,一方的に殴り飛ばされていた その場所のようだ。
    ミコトはどこに――いた。


    少し離れた区画,アイツは一人で武術か何かの型を繰り返していた。

    動きは次第に速くなり,まるで多数の敵を想定しているかのような――そんな激しい型だ。
    その反面,ほとんど場所を動いていない。
    半径2m位を,足で円を描く動きで移動している。
    例えるならば――流れるように。

    いつもは緩んでいる頬も,笑っている瞳も。
    俺の知ってるミヤセ・ミコトを構成する部分が,全て俺の知らないミヤセ・ミコトになっていた。

    その限りなく真剣な眼差し。
    切れ長の瞳が見据える先――それは一体何なのか。
    何を見据えて,その拳を振るっているのか――俺には想像がつかない。
    正直,そんな真剣なミコトを見たことがなかった俺は,何時の間にかじっと彼女を見詰めつづけてた。

    飽きる事なく,何時までも。

    何時までも。



     ▼

    半年前。
    エルリス・ハーネットが去ったこの学院でやるべき事を見つけた私。
    それは言うだけならば簡単な事だった。
    でも,それを実際に実行するとなると一人ではかなり難しい。そこでひとまず私は仲間を捜す事にした。

     ▲

    ケイン・アーノルド。

    偶然見かけたその名前は,一度だけ聞いたことのあった名前だった。
    "私"達の入学した年,魔鋼技科で主席だった男子生徒だ。

    ロンに命令し学生科にハッキング(不法アクセス)する事で手に入れた,膨大な個人情報。
    しかし,実際にその情報を調べるのは自分であってそれには限界がある。学院に存在する全生徒を調べきることは到底無理なので…
    私はとりあえず,当時自分と同じ第二過程生を調べる事にした。

    彼は然程成績の良い生徒ではなかった。
    入学時こそ主席合格を果たしていたけど,それから一年半を過ぎたその時の成績は中の上。
    まぁ当時の私と似たり寄ったりのところだった。

    目にとまったのは単なる興味本位だったんだろうと思う。
    でも,よくよく資料を読むうちに感じた。
    "自分と同じ匂い"を感じた。
    それは彼の過去にではなく――純粋に彼の持っているかもしれない,その才能に,だ。
    私の感が,そう告げている。

    私が持つ才能――それは直感だ,と聞いた。
    そう言ったのは,私が最も尊敬する人――"おばあちゃん"だ。
    『あなたが周りから孤立してしまうのは,あなたの感が的確で鋭すぎるから。でも,それは決して負の才能じゃないわ――』
    私が泣きながら学校から帰宅すると,おばあちゃんは何故か必ず私の家にきて私にそう言ってくれた。


    おばあちゃんの保証してくれた,この私の才能――直感力。
    それはこのケイン・アーノルドに会うべきだ,と。
    確かにそう告げている気がした。


    数日後,私は彼の下を訪れた。
    彼は実習室で作業中だったようだ。
    少々躊躇いがなかったわけでもなかったが.第一印象が肝心と,涼しい顔で中に入った。


    私は,驚愕した。
    彼は"魔法駆動機関(ドライブ・エンジン)と,そのミスリルの構造内部に円環封印で格納されているはずの補助具(ARMS)を,魔力を通わせることなく現実復帰(マテリアライズ)させて,整備していた"のだ。

    魔法駆動機関――ドライブエンジンは,ミスリルによって造られている。
    ミスリルに魔力を通わせ,駆動式群――魔導機構を稼動させる事で,ミスリル内に粒子分解・格納されている補助具を現実に具現させる。
    それは,その全てが"魔法を駆動させる流れ"として。
    簡略される事のない"手続き"として,決められている。

    ドライブエンジンを駆動しなければ,補助具は具現できない。
    補助具を具現しなければ,魔法は使えない。

    ぐるぐると,円環のようなこの関係こそが,魔法駆動機関(ドライブエンジン)を使った魔法駆動の根底にある。
    つまり,ドライブエンジンに魔力を通わせる――そうでなければ何も出来ない。これこそがこの国での魔法駆動と,補助具具現の第一定義。
    EXはこれらの定義を根底からふっ飛ばしているので――故に異端とされている。ここでは,まぁ関連しないけど。

    しかし実際は,これは人の手によって造られた物。
    決して出来ない事はないのだろうけど――恐らく状況が揃っていれば,と言う条件下で可能なのだろう。
    まず,メーカーや製作元にあるだろう,マスターキーの使用。
    それ以外なら,専用の研究室やドライブエンジンメーカー,もしくは王国工房など設備の整った最先端の研究施設で,など。

    それ以外の分解は,まず不可能。

    そう言われている完全分離・分解整備を"目の前で行っている"人間がいた。
    驚かずに居られるだろうか。いや,いられるとは思えない。
    間違いない,彼は紛れもない天才に違いない――。


    でも。
    私は極めて冷静に,それらを全てを無視しきって彼に声をかけた。

    「…やぁ,暇そうだね」

    って。


     ▼


    それからの半年は…恐らくエルが居た時と同じ位楽しい日々が続いている。
    彼をからかう私は,きっと素顔の私なんだろうと思う。


    …さっきはやりすぎたかな,と少々反省。
    流石に衝撃吸収機構(ショックアブソーバー)式のライトプロテクターを一式ダメにしてしまった。
    彼との掛け合いにかまけていたとはいえ,ちょっとやりすぎた。一瞬だけの魔法駆動機関の稼動(ドライブ)の練習相手には丁度良かったのがわるい。ケイが悪い。そう決めた。
    まぁしかし…

    機嫌を悪くしていないかな――いや,良いはずはないと思うけど。


    思いに捕われるままに,私は型を繰り返していたらしい。

    多数の敵を相手にする時の型。古代の武術の一つに似ている教官は言っていた。
    ――直感が導く最良で合理的なベクトル。私の足は床に円を描き…停滞させずに私は動く
    ――しかし,決して一定領域から出ることはしない。

    この型は,ドライブエンジンの円環封印――閉鎖式循環回廊と概念が似ている。
    ドライブエンジンの形がピアスや指輪,腕輪などの"輪"と言う形をしている理由には,こういった確かな理論と意味の下にある。
    永遠に途切れる事のない概念を付加した,実現可能な半永久機関として。

    現在の私も似たようなもの。
    私の半径2mに立ち入ったものは,全てその存在を排除する。それは私が止まる事を決めるまで,誰にも途切れさせる事は出来ない――



    「ミコト」

    "私の意思が止めよう思うまでは決して途切れさせる事が出来ない",そう思ったその時に。
    彼の一声で私の"円舞"は止まってしまった。

    ――そう。
    状況が許さない限り不可能だと言われている,ドライブエンジンの分解をいとも容易く実行することができる…ケイン・アーノルドによって。


    そんな,妙な符合を。
    私の心は,とてもおかしいと感じた。

    「ぷ」

    止まらない.止めることは出来ない――

    「あは、あはははははは!」
    「なんだ,頭でもおかしくなったか――いや、元からだったな」


    …私はそんな彼の背中に飛びついた。

    「うおっ! なんだコラ,どうした!?」

    自然と火照ってくる顔を隠すように,彼の背に顔を埋めて。

    「おい…どうしたんだ…?」
    「うん…ケイ」

    囁く声は熱い。
    その私の声にケインは暴れるのを止めた。何かを予感しているのだろうか――?

    かまわない。
    胸に回した手で思いきり彼を抱きしめ――

    「ミコト…?」
    「さっきのは少し,言い過ぎだとおもうよ?」


    ニッコリと笑ってクールに告げ,芸術的なまでのジャーマンスープレックスを決めてやった。



     ▽  △



    俺は部屋に帰りついた。
    ベッドに倒れこむ。
    時間は21時をまわってた。疲れた。死ぬ。

    結局,午後いっぱいは戦闘訓練――とは名ばかりの殴られ大会。その後夕食と雑談を経て今に至った。 
    今日も無力さを痛感した。俺では奴は止められない――
    と言うか,何でこう…アイツは俺にばっかり無茶しやがる。

    ミヤセ・ミコト。
    あいつは俺以外の前では余りその本性を現さない。
    淑やかに振舞っているつもりでも,俺の心眼はごまかされない。絶対だ。なぜなら心の眼で見ているからだ。

    何人か気づいている人間も居るだろう,多分。
    その人物――彼かもしくは彼女か。誰でも良い,俺を助けてくれ――もしくは俺と同じ状況になれ。
    俺一人だといささかミコトの御守はきつい。死ぬ。マジで。


    色々懊悩しつつ,ごろりと寝返りをうつ。頭が冴えて眠れない。

    何度目になるだろうか…また寝返った。
    すると偶然窓から刺しこむ月光が,彼の顔を照らす。
    その,場違いな眩しさに手をかざし――思う。


    …でも,まあ。

    アイツに会ってからのこの半年は――


    「…ま。悪くはねぇかな」


     △
     

    ポツリとこぼしたその一言。
    それは,もしかすると――

    紛れもない,本音の一言だったのかもしれない。



    月は,青年の手で隠れている。
    今はまだ。



    >>続く
記事引用 削除キー/

前の記事(元になった記事) 次の記事(この記事の返信)
←"紅い魔鋼"――◇一話◆ /サム →"紅い魔鋼"――◇三話◆ /サム
 
上記関連ツリー

Nomal "紅い魔鋼"――◇予告◆ / サム (04/11/17(Wed) 23:46) #51
Nomal "紅い魔鋼"――◇序章◆ / サム (04/11/18(Thu) 07:17) #52
  └Nomal "紅い魔鋼"――◇一話◆ / サム (04/11/18(Thu) 22:04) #53
    └Nomal "紅い魔鋼"――◇ニ話◆ / サム (04/11/19(Fri) 20:59) #60 ←Now
      └Nomal "紅い魔鋼"――◇三話◆ / サム (04/11/20(Sat) 22:02) #63
        └Nomal "紅い魔鋼"――◇四話◆ / サム (04/11/21(Sun) 21:58) #67
          └Nomal "紅い魔鋼"――◇五話◆ / サム (04/11/22(Mon) 21:53) #68
            └Nomal "紅い魔鋼"――◆五話◇ / サム (04/11/23(Tue) 17:57) #69
              └Nomal "紅い魔鋼"――◇六話◆前 / サム (04/11/24(Wed) 22:25) #75
                └Nomal "紅い魔鋼"――◇六話◆後 / サム (04/11/24(Wed) 22:28) #76
                  └Nomal "紅い魔鋼"――◇七話◆前 / サム (04/11/25(Thu) 21:59) #77
                    └Nomal "紅い魔鋼"――◇七話◆後 / サム (04/11/26(Fri) 21:21) #80
                      └Nomal "紅い魔鋼"――◇八話◆前 / サム (04/11/27(Sat) 22:06) #82
                        └Nomal "紅い魔鋼"――◇八話◆中 / サム (04/11/28(Sun) 21:55) #83
                          └Nomal "紅い魔鋼"――◇八話◆後 / サム (04/11/29(Mon) 21:51) #86
                            └Nomal "紅い魔鋼"――◇九話◆前 / サム (04/11/30(Tue) 21:53) #87
                              └Nomal "紅い魔鋼"――◇九話◆中 / サム (04/12/01(Wed) 21:58) #88
                                └Nomal "紅い魔鋼"――◇九話◆後 / サム (04/12/02(Thu) 22:02) #89
                                  └Nomal "紅い魔鋼"――◇十話◆前編 / サム (04/12/18(Sat) 08:57) #98
                                    └Nomal "紅い魔鋼"――◇十話◆中 / サム (04/12/20(Mon) 16:59) #100
                                      └Nomal "紅い魔鋼"――◇十話◆後 / サム (04/12/23(Thu) 14:08) #102
                                        └Nomal "紅い魔鋼"――◇十一話◆ / サム (05/01/18(Tue) 18:42) #130

All 上記ツリーを一括表示 / 上記ツリーをトピック表示
 
上記の記事へ返信

Pass/

HOME HELP 新着記事 ツリー表示 スレッド表示 トピック表示 検索 過去ログ

- Child Tree -