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■87 / 15階層)  "紅い魔鋼"――◇九話◆前
□投稿者/ サム -(2004/11/30(Tue) 21:53:32)
     ◇ 第九話 前編『前夜』◆


     
    工房の中央に設置された作業用の台座。
    台座の傍に佇むのは,魔法駆動機関(ドライブエンジン)"偉大なる父の御手(ファーザーズ・ハンズ)"を全展開・全身装備したケイン・アーノルドだ。

    魔鋼収斂用ドライブエンジン(ブラックスミス・モード)
    耐熱 耐圧 耐魔力に特化した装備で,加工に膨大な負荷が掛かる魔鋼(ミスリル)収斂を,この装備一つで行う事が出来るものだ。
    父から譲り受けたもので,今日の実験まで使った事は無かった。整備も怠った事も無かったが。


     ▽  △


    二日前の最初の実験から,はや3回目を数える。
    一度目の実験で行ったドライブエンジンの分離作業の工程から逆算した駆動式のシミュレート,不具合の解消,修正に次ぐ修正を行ったウィリティアとロマは,一日と半分で第1回目の記述作業を終えた。
    無論,これでドライブエンジンの(コア)に刻印する魔導機構(駆動式群)が完成したわけではない。

    研究はまだ始まったばかりで先も長い。

    "最初のスタートダッシュみたいなものよ"

    とはロマの発言。少し納得した。


    二回目の実験は,ハルのミスリル収斂とロマの刻印だった。
    とりあえず核の形を決めなければならない――と言う事で,原点中の原点,そしてハルの最も得意とする作品"真球"を核に据える事にした。

    この発案はかなり良い線を行っている気がする。
    エディット教授にその旨伝えたところ,『流石に早いな。』と魔鋼(ミスリル)をすぐ手配してくれた。

    ハルの魔鋼(ミスリル)収斂技術は以前も言ったように芸術の域だ。
    作り出した生の魔鋼(ミスリル)から真球に磨き上げる腕も信じられないほど良い。
    手触りだけでコンマ以下10桁近くの精度を叩き出すくらいだ,コイツはある意味ヒトじゃない。もっとも,ハルに言わせるなら"あんなグニャグニャした駆動式を制御しきれる方が信じらんね―よ"だそうだ。失礼なヤツめ。

    そんなわけで,ハルは半日掛けて魔鋼(ミスリル)を収斂し,魔鋼(ミスリル)を精製した。
    それから丸々一日掛けて二つの真球を削り上げた。

    曰く

    "やりきる勢いが大事なんだ,最初はな"

    ロマと同じか。まぁこれも納得しよう。
    結局精度的には二つともほぼ変わらなかった。どちらも真球として十分な素材になる。


    さて,ここからが問題だ。
    ロマの本職は刻印技術。
    それにもかかわらず,最初からウィリティアと二人で実験のレポートから導いた結果の駆動式化を行っていた。
    二人で作業しながらの方が特性の把握と式の簡略化も同時に行えるからデメリットよりもメリットの方が多いと言ってはいたが,当然疲れも残っているはず。なのに,どうしてもやりたいと言い張る。

    「どうしてもやるってのか?」
    「モチロンよ。貴方達のあの技術を見てたら,おさまりなんかつくわけないじゃない」

    どうやら俺達の作業が,ロマの芸術家魂に火をつけてしまったみたいだった。
    同じ状況下に立たされたら、俺も停まったかどうかわからない。…ハルは休めるときには休むんだろうな。

    結果は,どうやら余り上手く行かなかったらしい。
    数%誤差が生じたと言う話だった。
    シミュレートした結果,この状態で通常駆動した場合は半々の確率で空間反転が起るか核が壊れることになるらしい。

    そして――今からそれを検証する事になるわけだ。


     ▽  △


    この実験の適任者は,解析が得意なウィリティアが適任なのだが実験自体は結構危険を伴う。
    魔鋼(ミスリル)収斂用のドライブエンジンを持っている俺が一番安全に行えることから進行は俺が勤める事になった。
    魔鋼収斂用魔法駆動機関(ブラックスミス・タイプ)はハルも持っているが,先日の実験で魔力侵食が進んでしまい全点検整備(オーバーホール)行きになっている。
    ハルには疲れも残っている事もあり,やはり俺が適任だった。


    「駆動開始」

    物々しい出で立ちの俺。
    中央の作業台座は幾重にも張られた結界に囲まれており,その最外層に俺はいる。

    部屋自体を封印状態にしてあるのは最悪の事態を防ぐためだ。
    シミュレートした結果の"空間反転"と言う現象――これは聞いたことが無い。何がどう反転するのかが良くわからないための措置だ。

    サポートにまわったウィリティアは,工房内に設置されたもう一室に防護陣を張りこちらの経過を見守ることになっている。
    無論,常時モニタリングしているはずだ。


    魔鋼収斂用魔法駆動機関(ブラックスミス・タイプ)は,第五階級印でも完全駆動(フルドライブ)が可能だ。
    ただ,魔鋼を高圧高温下で収斂する場合には,その熱量を発生させるだけの魔力が必要となる。
    その場合に限り,教授達の許可の下で第四階級印を刻印された篭手を借り受ける事が出来る。
    篭手の印と,自分の体に焼きこまれ(プリントされ)た第五階級印を接続する事で,限定的に外部からの魔力流入量を底上げする事が可能になっている。

    俺達第三過程生はまだ第四階級印を取得するための国家試験を受ける事は出来ない。
    それは博士研究過程生…つまりは正式な研究員から,という規定があるからだ。

    今日はその篭手をも借りてきた。
    俺の右手で効果を表しているそれは,過去何度か魔鋼(ミスリル)収斂実習の際に使用したこともあり,然程違和感はない。
    意識を集中する。


    「実験,開始。」

    光が乱舞し始める。


     ▽


    『録画始め,各モニター順調に稼動中。』

    ケインの声が,スピーカー越しに響く。
    実験開始と同時に各所に設置されたカメラがその様子を録画し始めた。

    試験的に造りあげた(コア)に魔力が導通し始めると,その表面に刻印された魔導機構(駆動式群)が反応・明滅し始める。
    台座から30cmほど浮上し,回転を始めた。
    びっしりと刻印された数百以上の基礎駆動式がめちゃめちゃに光を発し始める――が。

    『予想範囲内,対処可能。』

    落ち着いた声。
    台座上に展開しているエーテルが,(コア)の乱れた魔力相を補正・補完する。

    別室に待機していたウィリティアは,その過程をつぶさに観察・メモをとる。
    バックアップにまわったとは言っても,自分のすべき事はやっておかなければならない。

    しかし,やはりケインの作業風景(エーテルドライブ)は壮観だ,これに勝る光景はなかなかない。
    先日見たハルの魔鋼収斂も,ロマの刻印技術もこれに並ぶほどの光景ではあった。
    やはり,多少の羨望はしょうがないだろう。
    そうウィリティアは思う。

    …とりあえず今は,こちらに集中しましょう。

    見とれる自分を戒め,ケインの作業を見つづける。

     ▽

    しっかし,なかなかしんどいな。

    少しでも気を抜くと暴走しそうな(コア)を制御しつつ,ケインはそう思った。
    刻印された駆動式の構想――全体の図形は悪くない。
    が,まだまだ各所で記述と刻印が甘いところも多い。今はそれをエーテルで補いながら少しずつ経過を観察している段階だ。
    このエーテル補完で,ウィリティアとロマの補正作業も多少楽になるだろう。

    自分の中には,彼女達が作った構成図の完成形となる形がぼんやりと浮かび上がりつつある。
    今この段階から既にここまでの概念が組めるなら,完成までは余り遠くないかもしれない――


    ぴしり。


    音がした。


     ▽


    『…対処不可能な事態発生。』
    「え?」

    一心不乱にメモをとっていたウィリティアは思わず聞き返していた。
    全く不完全な(コア)を完璧に制御していたケインが突然そう言ったからだ。

    (コア)にヒビが入った。駆動式崩壊中,魔力相も崩れてる…ちょっとヤバイな,これ、どーなんだろ』
    「な,なに暢気な事をいってるんです!?」

    緊急事態だ,しかし予想範囲内のものでもある。

    ウィリティアは補助陣の中で作業介入用のドライブエンジンを起動・解放。
    右腕全体を外装が覆い,工房内の全状態にアクセス可能になる。

    「手伝う事は?」
    『…そうだな,とりあえず工房内の結界を補強してくれ』
    「わかりました」

    ケインの要請を受けて,最外殻の結界から可能な限り補強する。
    暴走し始める魔力を制御し,ケインは徐々に後退している。それでいい。

    『む…』
    「どうしました?」
    魔力線(マナライン)が切り離せない』
    「それはマズイですわね…」

    つまり,(コア)への魔力供給が停められない,と言う事。
    ならば――

    「こちらから介入します。」
    『すまん』

    一通り結界を補強する。これで数分は稼げたはずだ。
    次は――

    強制介入開始(ハッキング・スタート)

    アレを何とかしなければ。

     ▽

    ウィリティアの介入を感知した。
    不正規なアクセス――割り込み(ハッキング)か,結構やるな。
    こちらからは制御しきれないラインを次々と分断していくその手際は…

    「おいおい,手際よすぎだぞ」
    『それはどうも』

    努めてにこやかな声。
    …敵に回さない方が良いかもしれないな。

    だのと考えながら,工房の最外壁まで辿りつく。
    自分と(コア)をつなぐラインはまだ途切れていない。
    それは現象の影響下にあると言う事だが,同時にこちらからの介入もまだまだ可能だ,またモニターも生きている事になる。

    事態の記録と解析。
    失敗を想定している場合は,可能な限り情報を収拾しなければならない。
    が,限界も近い。

    『そろそろラインを切り離しますわよ』
    「そっちのタイミングでやってくれ。」
    『判りました』

    打てば響く応答。
    こちらの思惑を察するまでもなく当然のようにウィリティアは補助してくれる,ありがたい限りだ。


     ▽


    ケインが最外殻で結界を張った。
    それを見届けて,(コア)と彼のラインを切り離す。

    途端―――

    光が溢れ,工房内を表示していたモニターがホワイトアウトした!?


    「ケイン!!」


     ▽▽▽













    ―――真っ白な景色だ。

    俺は辺りを見まわす。なにもない。
    ついでに言えば,魔法駆動機関(ドライブエンジン)もつけてない。
    ほんの一瞬前までは工房内にいたはずだ,ここは一体――?



    見渡す限り白い光景。
    その世界の中心を横切る一本の線。
    天と地を分ける境界なのだろうか。

    地平線.それとも水平線か?

    海はない。
    かと言って,今立っているコレが地面とも思えない…。

    ぐるりと180度まわって見たが,地形らしきものもない。
    ただずーーっと,一本の線が遥か彼方を貫くのみ。
    なんだこりゃ。わけわからん。



    不意に上を見てみた。
    遥か頭上に何かが見える。

    …ん?

    円柱のようなあまりにも巨大過ぎるソレは,こんな何も無い世界でなければ認識不可能な程の巨大さだった。



    想像してみよう。
    自分をまず地面に立たせる。次いでまわりから地形と言う概念を全て排除する。
    すると残るのは,"惑星のラインを示す一本の境界線"が残る。
    そのいっぱいいいっぱいに(・・・・・・・・・・・)見える巨大な長方形。
    上限は見えない。

    恐らく――月軌道上から見たら,惑星に一本の巨大な柱が観測できる――そんなレベルの建造物(・・・)だ。



    なんだ,アレは―――――――――?















               ―強制遮断(アボート)















    意識が消えた。



















     △△△

     ▽


    モニターが復帰する。
    時間にしておおよそ1秒以下の出来事だったが,ウィリティアは事態の収束を確認して扉を蹴破った。

    「ケイン! だいじょうぶですか!?」

    見まわす。
    台座の上にあるのは,この事態を引き起こした一本の亀裂の入った真球。
    辺りはすすけ,魔力に所々侵食されているところもあるが――そこは工房,許容範囲内だろう。
    入り口に視線を移すと,これまたすすけた外殻装甲(アーマード・シェル)が身を起そうとしているところだった。

    「ケイン…よかった,ご無事でしたのね」
    「あぁ,びびったぞ。」

    解除・収束する鍛冶士の外殻装甲(アーマード・シェル)は,彼の両手の中指へと集まり一対の指輪となる。
    これがケインのドライブエンジンの外装だ。

    「一体何が起りましたの?」
    「…いやさっぱり。俺には理解できない。モニターは出来てたか?」
    「ホワイトアウトしてからは何も。それ以前ならば全て記録済みですけれど…」

    詳細不明の現象。
    ケインは自分の見た光景を説明しようと思ったのだが・・・全く言葉に出来ない。
    アレを表す言葉は、この世界には存在しない。してはならない気がした。

    なんにしても,とウィリティアはホッとしたようにケインを見て微笑んだ。


    「ご無事で何よりです,御疲れさま」



    今回は,これで実験終了だ。


     ▽  △

    午前は普通の講義,午後も同様。
    それ以降の特別課外が俺達4人の研究時間だった。

    何時もならば夜中まで延長される研究だが,明日からは野外演習。
    明日から数日いないとは既に皆に通知済みだったから,今日は早めに切り上げる。
    …妙な符合か,ウィリティアも明日から三日間留守にするそうだ。何をするのだろうか。
    実験の方が忙しくて何時も聞きそびれてしまっていたが…まぁ三日後に戻ってきたときにでも構わないだろう。

     
     △


    第1回目の模擬実験は失敗に終わった。
    最後にはおかしな現象も起ったが,まぁ記録も取れたしこれからすべき事の方針も立ち,役割分担も大まかに決まった。
    順調な出だし,これからの一年が楽しみだ。
    ロマもハルもウィリティアもいいヤツラで,人付き合いの少ない俺でも気安く接する事が出来る。

    ミコトみたいなやつらだよな。

    有りがたい,と思ってしまうのはどんな心境の変化だろうか。
    俺の事なのに俺には良く判らない。


    ミコトとは数日前に食堂で会ったっきりだが,まぁなんというか。大丈夫だろうか。

    実はここ数日ミコトとは会えていなかった。
    何かと飛びまわっているミコトと、実験で忙しい俺では予定がなかなか合わなかった事が主な要因だ。

    先日のアレは俺が悪いわけではない。多分。
    だが――

    「謝っとくか…一応。」

    明日から三日間,同じ班になるというのにすれ違っていてはしょうがない。
    こちらから譲歩しても,まぁ良い。大人になると言う事はそう言う事だ。多分。

    まぁとりあえず。


    「明日になってみてからじゃないと,わからんことかな。」


    ベッドに倒れこんだ。



    PIPIPIPIPI…



    「ん?」

    俺の携帯端末だ。誰だろう?

    『あ,ケイ? ごめん,寝てたかな?』
    「いや,もう少しで寝る所だった。…どうした?」

    ミコトだ。アイツは端末の向こうで あのね,と少し口篭もり。

    『…ちょっとだけ,学院の中庭に出てきてくれない?』

    その何処となく真剣な口調。何かあったのだろうか…?


    「わかった。少しまて」


    俺の夜は,もう少し終わらないらしい――。




     ▽  △





     ▼▼




    ―深夜,リディル市内・某所―


    「先生,どうでした?」

    落ち着いた雰囲気の長い黒髪の美少女が,事務所に帰ってきた白いコートの男に尋ねた。
    彼は年齢20代中盤辺りの優男だ。

    「いやーまいった。英雄ランディールの裏話が出るわ出るわ,掘り出し物だよ,これは」

    一冊の本を気軽に振る。先日ミコトが彼女(MAD・SPEED・LADY)に依頼した品だ。

    「…それで,貴方はどうするの?」

    言葉と共に奥から別の女性が出てくる。
    長い黒髪の少女(MAD・SPEED・LADY)とは対照的に,ショートカットの標準的な栗色の髪。
    年齢は男と同じ位の美女だ。
    服装はさっぱりと黒系のシャツとスラックスに纏めている。男装の麗人といった雰囲気だ。
    そんな彼女の一際目を引く装飾品が,手首につけた魔法駆動機関(ブレスレット)。一般の量産品ではない――貴族が持つ完全な一品物(オーダーメイド)だ。

    「やぁ,キミも来ていたのか。」
    「僕も来てますよ,先生。」

    最後に出てきたのは少年。黒髪の少女の隣りに何時の間にか立っていた。

    「おや,珍しく全員揃ったみたいだね」
    「ですね。」

    少年の相槌に,男はニコニコと機嫌良さそうに笑った。

    「先生,調査が終わったなら早速報告に向かいたいのですが」
    「だめ。」

    は? と黒髪の少女は問い直す。

    「なぜです?」
    「うん。内容がまずいからね。ちょっとどころか大分王国の国家機密(タブー)に抵触する。」

    シン,と言葉が消える。

    「僕自身は,まぁ役柄上構わないんだけど,学院の生徒に教えれる事実じゃないからね」
    「何かが,起るってことですか?」

    少年が問う。

    「恐らくね。もし魔鋼錬金協会(フリーメーソン)がコレ以上の情報を持っているとしたら――例えば,暗号化されたはずの映像資料とか。」

    記録の一部にあった意識暗号化された記述。
    それは映像資料の情報源(ソース)を示したものかもしれない,という推測には辿りついていた。

    もしくはそれ以上の何か…とかね,と彼は続ける。


    「そんなものがあるなら…確実に動くだろうね。」
    「なら…」

    一刻も早く知らせなくては。
    と席を立ちかける少女を留めるように,男は言う。

    「それでもダメ。」
    「だから,なんでですか!?」

    王国のタブーなど彼女には何ら関係ない。それよりも自分の知合いの方が大切に決まっている。
    いいかげん切れる。
    まぁまぁ.と押し留める少年が健気だ。もう一人の女性は,静かに男の言葉に耳を傾けている。

    「国王命令もでたからね。」
    「…な,」
    「しかも,1000年前の王の遺言の発動付きだ。信じられない事に。」

    1000年前の王国で起った戦乱の後。
    英雄ランディールが終結させた戦乱後,都市リディルを作り上げ国内の体制を僅か10年足らずで立ち直らせた賢王。
    その彼が.この時代に起るだろう"何か"を予測し得たというのだろうか。

    「1000年前の戦乱の終結――それは仮初のもの。」

    静かに男は語る。

    「その本当の決着をつけるには,二つの鍵が必要になる。ひとつは――英雄ランディールの神器(ARMS),雷法。もう一つは…」

    言葉を区切り,続ける。

    「邪竜の額に在ったとされる"紅い魔鋼(クリムゾンレッド)"」
    「でも,邪竜は消滅したのでは?」

    少年が再び問う。

    「そうだね。でも,どうやら過去の賢王が予測するにはそれが再び現れる条件というのがあるらしくてさ。」
    顕現儀式(禁呪)…過去の情報を抽出する魔導機構ね」
    「そう。」

    美女が言う。しかしそれは――

    「それって,ハンパじゃなく大量の魔導機構(駆動式群)と魔力,時間が掛かるのでは?」
    「そうさ。だから彼等(フリーメーソン)と,カレンの先輩は泳がす。」

    な,と黒髪の少女(MAD・SPEED・LADY)――ミスティカ・レンは驚いた。

    「見捨てるつもりですか,…先生?」
    「まさか。」

    苦笑。
    肩をすくめる。

    「カレンの先輩が何をするのかは判らないけど,そう大した事が出来るとは思えない。学院の学生だろう?」

    それは、そうですけど,と口篭もる。
    変わって少年が再度聞いた。

    「では,僕達がする事は?」
    「ランディールの神器,雷法を探し出す」

    もし,と美女が問う。

    「見つからなかった場合は?」
    「…そうだなぁ。過去の王様には悪いけど,僕が決着をつけるしかないだろう。」

    その裁量は譲渡されてるしね,と男は微笑む。
    それに,彼にはその義務があるのだから。

    「じゃぁカレンは,キミの心配する先輩についていてくれるかな?」
    「暗に,ですよね…」

    しょんぼりと問う少女に向かって男は苦笑する。
    判りました,とカレンは奥の部屋へ入っていった。

    「ジンは僕と一緒に雷法探し。ひとまず先に王宮に向かってくれないかな」
    「はい,先生。」

    そう答えると,ジンと呼ばれたカレンと同年代の少年は外へと出ていった。

    一人残った美女が 私は?と視線で問う。
    そうだね,と考える男。

    「とりあえず,紅茶を淹れて欲しいな」
    「判ったわ、少し待っていてね」

    微笑みながら歩み去る。
    それを見届けて彼――エステラルド・マーシェルはつぶやいた。


    「――さて。これから忙しくなりそうだね…」





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