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■80 / 11階層)  "紅い魔鋼"――◇七話◆後
□投稿者/ サム -(2004/11/26(Fri) 21:21:54)
     ◇ 第七話 後編『歴史の表裏』 ◆


    1週間。
    私は1週間市営図書館に通いつづけ,ファルナの1000年前の歴史を調べた。戦乱によって当時の資料の大部分が消失したとは言っても,それ以降に再編集したものも多数ある。
    複数の資料を比較しながら過去の記録に齟齬が無いかを推察すると言う私の作業は,恐らく思ったよりも捗っていた。
    その結果,推測と言う領域を出ることはなかったけどとりあえず成果らしい成果は得ることが出来た。

    魔鋼錬金協会につながる線。
    それは"魔鋼と人体の関わり"と言う"1000年と少し前の魔鋼錬金協会"が発行した,一冊の禁書だった。


     ▽


    都市ファルナの郊外に在る一番古い市営図書館。
    私が選んだ図書館は一番歴史の古いものだった。
    しかしそれでも,1000年前の戦争より500年後に造られた建物だ。

    加えてリディルで調べた限りでは,1000年前のファルナに存在した魔鋼錬金協会に関する資料は"邪竜"の出現と共に,その殆どが消失してしまったらしい。
    ここにあるのは僅かに残った当時の資料と,以後の歴史を綴ったものだ。

    王国の監査も幾度も入っているみたいだ。
    図書館の歴史に触れる記述を数度読んだが,理由が不透明な資料監査がここ数百年でも何度かあったらしい。
    そのたびに,王国史に不自然な事件や災害が起っている事に気づいた。
    これも成果の一つ。

    資料を纏める際に紙の切れ端に記述を重ねて整理しているが、"本当に気づいた事"は頭の中のみに留める。
    何時何処で,誰が私を監視しているとも限らない。
    調べ事の最中の警戒心は自意識過剰で良い位だ。

     ▽

    『魔鋼と人体の関わり』と題された禁書を見つけたのは本当にほんの偶然だった。他意はない…ハズだと思う。
    私は体育館ほどの広さを誇るこの図書館の隅の隅,1000年前の歴史に関する資料のある本棚郡の場所で本を選んでいた。
    それ以前のものになると,都市崩壊の危機に瀕していたからだろうか、まったくといっていいほど見つからない。
    しょうがないから,高さ2mはある本棚に梯子を掛けながら最上段まで調べていた。

    気づいたのは本当に偶然だった。
    最上段の更に上。つまり棚の天井部分に埃の積もった一冊の本を見つけた。
    私は梯子の一番上に腰を掛けた状態。
    私の身長は162cmと女子のなかでも結構スラリとしている方で,梯子の上に腰掛けると丁度本棚の一番上と目線が合う位置だった。

    「なんだろう?」

    乱雑に放り投げられたかのような置き方なのを気にしつつ,その本を取り上げた。
    この辺りの整理は,恐らく500年前の設立当初からされていない事はわかっていた。殆どの歴史書に埃が被っているし本棚も汚い。
    都市崩壊時の歴史を綴ったものだからだろうか,それとも工業都市だからと歴史自体注目されてこなかったのかはわからないが――ともかく人の手が触れた形跡は少ない。
    ここ数年でこの区画に立ち入ったのはもしかすると私だけかもしれない。

    ともかく埃を払う。
    文字体系は,駆動式の記述法が3000年前から変わらない事もあってほとんど変わっていない。
    違うのは文章の言いまわし位で,ニュアンスが当時か現代かの差異だ。読むのには全く苦労しない。

    「ん…と。"魔鋼と人体の関わり"…?」



    開いて読み進め…ページを捲る手を止めざるを得なかった。

    内容は…人が読んではならない物,とだけ言って置く事にする。
    とても人の所業とは思えなかった。

     ▽


    要は人体実験の研究過程を纏めたものだった。
    実に詳細に事実だけを記されていたのが印象的だった。まるで病院のカルテのようだ。

    魔鋼(ミスリル)が人体に与える影響,効果,弊害。
    その様々な"成果"は,恐らく今現代の魔鋼技術にも関わっている。
    現代医学の裏にその悲惨なまでの研究過程があるのと同じことだ――が,これが,それだというのだろうか。
    少なくとも,医学は私達の文明の発展に多大な貢献をしている、けど。
    私は魔鋼と人との直接の関わりから得るものなど,聞いた事が無い――。

    それに。
    "これ"に記述されている状況は,どれも"魔鋼(ミスリル)を人体に直接埋め込んだ場合"と言う異常な状況を主題(メインテーマ)にして行われている。
    それが意味するところを知るのは,もう少し先のページにあった。


     ▽

    『融合を始めた』

    そう,ページの一番上に書き出されていた。
    …彼等,魔鋼錬金協会が異常だと言わしめるその最たる部分。

    詳細を知らなかった私達でさえ,魔鋼錬金協会(フリーメーソン)が危険な連中だ,と言うことは知っていた。
    が,真の意味で知っていると言う事ではなかった。


    …真実を知ると言う意味。
    それは半年前に痛感したはずだったのに,まだ私は甘えていたのだろうか――。


    正直,恐ろしくなったと言うのが正直なところ。
    それでも進むべきだ,と理性と直感が声をそろえる。

    "あの娘"はきっと,もっと残酷な事を知っているような気がする。
    この世界の不条理さ,裏側に隠された様々な秘密。そんな氷山の一角を,エルリス・ハーネットも知っているのだとしたら――?

    私はここでは立ち止まらない。誰でもない,自分の為に立ち止まらない。自らの掲げた野望に賭けて,だ。
    あの娘(エルリス)へ,私からプレゼント(未来)を贈るために。
    一緒に在りたいと願った,あの夜の約束を果たすために,だ。

    私は意を決した。


    次ページを捲る――。


     ▽


    『融合を始めた。被験者(同志)の少年の心臓直上に埋め込まれた魔鋼(ミスリル)はその色を徐々に変化させ始める。最初は白銀だった魔鋼の色が徐々に赤黒く変容する様子をsfoh003ucccとして保存する』

    一見無意味な記号列は,恐らく意識暗号化。部外者に読まれた時の為に本当に重要な部分のみにプロテクトをかけていると推測する。
    解読方法は,恐らく無い。1000年前の書だ、書面にかかれた意識プロテクトは合言葉のみで解読可能になるタイプのものだろう。
    音声として残っていなければ意味の無いタイプだとしたら,それこそ1000年前のこの著者に直接聞か無ければ意味は無い。つまり、事実上不可能と言う事。
    それらは飛ばす。恐らく状況の推移を映像化したものだろうと予測をつけた。…とても見たいものではない。

    『…3週間が経過する。埋め込まれた魔鋼は完全に赤色化した。魔力反応率は今までに無い値を示している。』
    『被験者の意識は完全に無い。恐らく魔鋼内部に転移(シフト)したと推測される』
    『こちらの呼びかけにも,外部からの魔力誘導・(エーテル)干渉にも何ら反応せず』
    『実験は失敗』
    『摘出手術を決定する』
    『手術は今より2週間後の魔導暦2015年12月09日を予定』


    以降は何も書かれていない。
    白紙のページが終わりまで続くだけだった。

    私は最後の日付に注目する。


    『魔導暦2015年12月09日』


    現在,魔導暦3022年。その日付は――およそ,1000年前のものだった。


     ▽  △


    図書館を出る。
    もう,ここに長居するつもりは無かった。この街にも。
    理性はまだ調査するべきだと主張する…けど恐怖の方が勝っていた。
    こればっかりはしょうがない…怖いものは怖いのだから。
    それと,かなりの嫌悪感。
    このまま行動してもろくな結果を生まないとも理解している。

    帰ろう。
    ここに居ても今の所出きる事はないのだから。
    しかし。
    それでもコレだけは,手放すわけにはならない。

     ▼

    私はその禁書を持ち出した。
    元々誰も気づかなかったものだから,問題は無いと思う。

    念には念を入れて私の魔法駆動機関(ドライブエンジン)"隠者(ハルミート)"を起動し,バイザーのみの限定駆動状態(ハーフドライブ)で周囲を監視させておく事は忘れない。
    その足で私はリディル(母校)に戻る事にした。

    野外演習に関する直接的な情報とはならなかった。
    しかしそれでも,少なくとも1000年前の戦乱と旧ファルナから現れた敵性兵器。その発端とされる魔鋼錬金協会…そしてこの禁書。

    記録されていた"紅い魔鋼(クリムゾン・レッド)"

    途切れた記録と王国の隠蔽する事実。
    ランディ―ル平原での決戦で何があったのだろうか。
    そして,現代に置いて活動を始めた魔鋼錬金協会(フリーメーソン)


    嫌な予感がする――。

    私はそんな胸騒ぎを覚えながら,リディルを目指した。




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