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■88 / 16階層)   "紅い魔鋼"――◇九話◆中
□投稿者/ サム -(2004/12/01(Wed) 21:58:35)
     ◇ 第九話 中編『出発の朝』 ◆


    私は知らない場所にいた。
    ここは何処だろう。
    ぼんやりと辺りを見まわしてみても,やはり記憶とは一致しない。


     ――ようやく通じたみたいだ。
     

    頭に響く声。
    私は霞がかった思考状態で考える。


    あなた,だれ?



     ――呼び立てして済まない。君と同期するのに一月近く掛かってしまったからな。



    なにを言っているのか良くわからない。
    だから聞く事にする。


    …こーいうばあい,わたしっていっつもききやくだしね。


    苦笑する気配。やはり誰かいるようだ。
    私の知りあいだろうか。判らない。



     ――君との直接の面識はない。初対面さ。



    そうなんだ。でもあなただれ?ここどこ?



     ――ここは私の夢の中。そして君の夢の中だ。



    …ふーん。じゃぁわたし,ねてるのかな?



     ――そうなるだろう。でなければ私の波長を君の精神に同期させる事は不可能だ。君は普段から精神防壁が強固なようだしな。



    うん。そうかもしれない。


    私は何時だって自分を守るための術を用意している。
    本来ならば寝ている最中でも油断する事はないのだが,明日からの野外演習訓練のための準備で最近は色々と飛びまわり,今夜はぐっすり寝ようとベッドに倒れこんだはずだ。


    ―――なんですって。



      ――…む,覚醒するのか。しょうがない,手短に告げておこう。"私を手放すな"。いいか,絶対に"私を手放すな"。君の向かう場所には――が,―印されてい――。
      


    誰だか知らないけど,人の意識に勝手に
      


    「入ってくるな―――!」


     ▽


    うがーー!と両手を振り上げてベッドの上に立ちあがった。

    「…なー。」

    朝日が眩しい。
    カーテンが開きっぱなしの窓の外,すずめがチュンチュン鳴いている。
    左を見て,右を見て,正面を見る。

    「えーと。」

    とか言いつつ両腕を下ろし時計を確認。

    現在午前6時ジャスト。
    確か――昨夜ケイと確認したとき決めた集合時間が――

    『いい? 朝6時に寮脇の車庫に荷物持って集合だからね。その時に他学科であぶれた一人が合流予定だから。』


    やばい。



    ―――遅刻だ。



     ▽  △


    ランディール広原(英雄の丘)
    1000年前の戦乱の終結となったその歴史的な場所。
    学術都市リディルから西へ160kmほどの所がそう呼ばれていた。

    一帯は広い広い盆地になっている。
    北を隣国との国境――そして山脈で覆われており,南下するとランディール広原。
    東に向かえば経済の中心地,学術都市リディルと海岸線にぶつかる。
    東へ向かわずに南下を続け,なだらかな山を越えると王国の首都である王都にぶつかる。

    が,ランディール広原で最も目を引くのは広原の中央部に穿たれた大きなクレーターと,そこから伸びる亀裂だろう。
    それは,やはり1000年前の戦いの際につけられた傷跡だと言う伝承がいまでも各地に伝わっている。

    曰く――

      雷帝招来せし光の御柱,邪竜を打ち滅ぼし王国を救うものなり――

    とかなんとか。
    事の真偽はさて置き,大地を穿つ巨大な亀裂があるのもまた事実。
    その亀裂はクレーターの中心部から西南西にほぼ直線を描く軌道を取っている。

    …強大なエネルギーと指向性を持った"何か"で切り裂かれたような,そんな直線軌道が。


    1000年前の戦い。
    王国を救ったと言う英雄ランディールに関する資料は実は余りに少なく,偉業に対しての名声が余り高くないのもまた事実。
    主な伝承の起った地が,このこの場所(英雄の丘)から600kmほど南部にある工業都市ファルナと言うのも,また謎の一つだ。
    彼に関する様々な資料は当時の戦いの最中に失われ,現代に伝わるのはちょっとした昔話のみにとどまっている。

    誰がそう望んだのか。
    何がそうをさせたのか。

    確実に名を残している部分といえば,彼が王国で最初で最後の"大魔導士"という称号を得たという事であり,そして旧ファルナで突如"発生"した邪竜を,傷害物の無い広原まで誘き出して討ち滅ぼした,と言う事のみ。
    現代において最も謎深き英雄ランディール・リディストレス。
    彼の生涯を追う人間は,少なくない。


     ▽  △


    ミコトが勝手に申し込んだ野外演習訓練。
    ランディール広原で行われると言うそれに参加するため,一月も前から色々と準備を進めてきた。
    それ以来なんだか俺の周囲は色々と変化の色を見せてきたが,それは良いことなのだろうと俺の広い心が許容している。
    実際に今の生活は楽しいものだと感じているからだ。

    半年前にミコトから声を掛けられたときからは想像もできないくらい充実した日々。
    今日から三日間も,多分そうなったんだろうな,と過去形で思った。


     ▼


    昨日夜。
    失敗に終わった1回目の模擬発動試験の事後処理をして部屋に戻ると,ミコトからの連絡が来た。

    久しぶりだし"例の件"もある。直接会って話をすることにした俺達は,夜も遅くなり始めた中庭で待ち合わせた。



    久しぶり,と挨拶を交わす。
    コイツとは食堂でなにか誤解されたままだったなと思い,一応謝っておく事にした。

    「こないだのあれはな,ちょっとした行き違いと言うか…」
    「わかってるよ、ケイは何も悪くないわ。」

    以外と物分りが良い。
    ちょっと見なおした感じでミコトを見ると,アイツはバツが悪そうに目をそらした。

    「あれは…その。私ちょっと苛苛してたし…それにあの子だって色々というからつい当たっちゃったと言うか…その。」

    ミコトはちらっと俺を上目遣いに見詰めた。

    「ごめん,態度悪かったわよね」
    「…いや,いいんだ。気にしないでくれ」

    ホッと息をつく。どうやら余り怒ってなかったようだし自分の悪い部分も認める余裕もあるみたいだ。
    …まぁコイツらしいというか。

    俺が苦笑すると同時にミコトも同様に苦笑。
    思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

    それで雰囲気が和んだ。


    それからベンチに座り,今まで"捜査報告"を俺は受けた。
    それは驚愕すべき事実だ,何しろ――

    秘密組織(フリーメーソン)の人体実験記録だって…?」
    「うん,ファルナの図書館で調べてきた。埃被ってたし,手書きで1000年前の日付あったし。見た感じ本物だったよ」
    「現物は? 俺が解析してやろうか」
    「現物は信用のできる知合いに預けて調べてもらってる。ホントなら今夜中に連絡来るわけだったんだけど,終わんなかったみたい」

    携帯端末をさわり駆動・着信履歴を確かめるが,特に新しいものは無いみたいだ。
    それにしても,コイツには一体どの程度の知合いがいるのだろうか。俺とは全然違う。

    それで,とミコトは続ける。

    「連中,史跡調査って名目で現地に入るけど,搬入してる機材資材がちょっとおかしいの」

    ミコトは俺の傍に来て, みて,と端末を操作。ディスプレイに表示されたのは――

    「これは…なんだコレは?」
    「ワケわかんないでしょ?」

    駆動式が刻印済みの魔鋼(ミスリル)をトラック一台分。
    尋常な量じゃない。だが,"何かをするつもり"なのは火を見るよりも明らかだ。

    「警察に通報したほうが良いじゃないのか?」
    「まだ何もしてない状態で通報しても意味無いじゃない。」

    それこそ何をするつもりなのかもわかんないし,と唇を尖らせる。
    確かにその通りだ。

    「にしても…」
    「うん、これはもう警戒じゃ済まないかもね」

    コイツの勘は良く当たる。そんな気がする。
    まぁそれは置いておこう,今は然程重要な事でもない。

    「どうするんだ? 演習訓練中には勝手な行動は取れないんだろう?」
    「それなんだけど,実はね」

    と前置きしてミコトはニヤっと笑う。

    「訓練日の午前〜午後は主にミーティングと装備の整理で,夜から二日目丸々一日かけてサバイバル訓練になるの。」
    「ほう」

    それは…何とも好都合だ。

    「でね,チーム分けは結構適当になってるから,私とケイで決まりね。」

    これ,決定次項だから。とニコーっと笑うミコト。
    思わず苦笑する。逆らえない事に無理に逆らおうとはもう思わないさ。
    それに――

    「初めての実戦演習(パーティ)なんだ,上手くエスコートしてくれよ?」
    「ぷ、わかってますわ,ミスター」

    あはは!と気持ち良く笑うアイツ。
    こんな掛け合いも悪くない。俺も穏やかに笑えているのだろうか。

    「うん。まぁその辺りは任せて。で,魔鋼錬金協会(ヤツラ)の動きなんだけど」

    と,演習区域を呼び出した端末のモニター。
    ヤツラの動きをどうやって把握しているのかは謎だが,ミコトは淀みなく地図をの上を指でなぞり…

    「例のクレーターの場所か?」
    「その中心部分と,まわりの5本の鉄柱の調査をしてるらしいの」

    5本の鉄柱とは,これも亀裂やクレーターと同様に1000年前から存在している。
    ほぼクレーターを囲むように等間隔で打ちこまれた5本の鉄柱は,元々は6本在ったと予測されている。
    亀裂が形成されている部分にも一本在るとすれば,綺麗な六角形を作るからだ。そのほぼ中心にクレーターが位置する形になっている。
    無論,その目的は不明。

    これらの図形と奴等の動向…そして運ばれている怪しげな魔鋼(ミスリル)
    それから導き出される一つの推論は――

    「儀式型の駆動式展開か?」
    「十中八九,多分そうだと思う。」

    しかし,やはり目的がわからない。
    いや。一つだけ――推測できるもの…いや,"夢"が,あるにはあるが…

    「…まさかとは思うが…邪竜復活の儀式だ〜とか言い出すんじゃないだろうな?」
    「…まさか。子供じゃあるまいし…。」

    それはバカげた発想だ。
    魔法で異世界から邪竜を呼び出す。これほどマヌケでオバカな発想をする人間はこの世界にはないだろう。
    せいぜい冒険小説かマンガの世界だけだ,そんな意味不明な事を出来るのは。

    魔法とは"限定的に発生させる現象"に過ぎない。
    その効果は永続的ではなく,瞬間的なものだ。この世界を取り巻く物理体系がそうなっているのだから仕方がない。
    駆動式にも永久駆動型と言うものはなく、基礎駆動式を見れば判る通りどれも瞬間的な効果・発動・影響力しか持っていない。
    様々に組み合わせる事で任意に継続時間を設定する事は出来ても、永久に持続するものはありえない。
    閉鎖性循環回廊にしても,それを構成する魔鋼が永遠に在り続ける物質ではない。これにも半減期が存在する。故にこの世には永遠はない事になる。

    例えどれだけ好意的に見たとしても,"異世界からの召喚"と言うものは"魔法"ではない。
    物理体系に準じた理論・概念で動かす二次的な作用…それに基づく発生技術――それが魔法だからだ。
    "異世界"だのというあるのかどうかも判らないものには影響しようが無い。作用をもたらす事は出来ない。
    だから,怪獣の召還なんて夢というか夢想というか…キチガイのする事だ。
    本気でそれを実行しようとするならば,警察や軍よりも救急車を呼んだ方が良いのかもしれない。

    「でも」

    気を取りなおしたのか,ミコトが口を開いた。

    「トラック1台分――仮に5tだとしても,再加工すればとんでもないことになるよね」
    「だな。他国にコレだけの魔鋼が渡るのはなるべくなら避けたいところだろ」

    王国としては,だがなと続ける。
    そうだね、と頷くミコト。

    「でも,本当に想定外の事態が起こる可能性も…ないわけじゃないことは忘れないでね」
    「…あぁ,覚えとくよ」

    うん、それで良いと思う,とミコトはにこっと笑った。
    大体話は終わりか。なら,明日も早い事だし。

    「んじゃ,話は終わり――だな。」
    「…あ。」
    「ん?」

    何か考えるそぶりのミコトに,俺は振りむいた。

    「どした?」
    「うん。一つ言い忘れ」

    忘れるとこだった,と付け加える。

    「集合時間。明日の朝6時に寮脇の車庫に荷物持って集合だからね。その時に他学科であぶれた一人が合流予定だから。」
    「あぶれた一人?」

    うん、と続ける。

    「他学科の人が学院から出るバスの乗員数の上限から外れちゃったみたいで,私の車で行く事になってるから。」
    「おぉ、車持ってたのか。」
    「いーでしょ」

    多少羨ましいとおもってしまう。しかしまぁ,移動は混み合ったバスよりは全然楽だろう。
    正直助かる。

    「判った,明日6時だな」
    「うん。遅れるなヨ?」

    ニコっと笑うミコト。判ってる,と返しておこう。

    「んじゃ,また明日な」
    「うん、おやすみなさい,ケイ。」

    そう言ってミコトは たたたっと向こう側――女子寮の方へ小走りにかけていく。
    一度振り向いて俺に手を振り――それに応えて手を振ってやった。
    笑ったのを感じる。
    少し恥ずかしい感じもするが,まぁ良いだろう。最近の俺は心が広いのだ。

    姿が見えなくなるまで何となく見送り――。

    さて,明日に備えて寝る事にするか。


     ▲


    「…ん」

    目覚めは爽快…とは言わないが,そこそこ気分の良いものだった。
    窓の外は朝靄が僅かに掛かっていて,差し込む太陽の光の軌跡が見える。

    良い天気だ。
    今日は暑くなるのかもしれない。

    春も半ばを過ぎ,比較的四季の色が強いこの地域は春と夏の境目である梅雨と言う特殊な気候もある。
    じめじめして嫌いだ,と言う人間が大多数だが、俺はさほど嫌いじゃない。
    そもそも"空から何かが降ってくる"と言う状況が好きなのだ。
    理由は単純,それが綺麗だから。
    雨も雪も好ましい。
    寒さとか湿気の不快さが気にならないほどに。


    さて置き,現在時刻は5時丁度くらいか。
    少し早めだが,起きておく事に損はないだろう。2度寝して集合時間に遅刻したら眼も当てられないことだしな。

    起きる事にした。

     ▽

    昨夜のうちに準備した細々としたものを纏めてバックパックに詰め込み、ここ一月着込んだ戦闘服を身につける。
    俺は戦闘訓練を正式に受けているわけではないし,安全を期する為に色々と準備した。
    一月前に教務課の管理する旧武器倉庫から持ち出した装備類を勝手に魔法駆動機関(ドライブエンジン)に組みこみ,そこそこの攻撃能力と防御機構などを構築した。

    あぁ,親父から譲ってもらった魔鋼収斂用魔法駆動機関(ドライブエンジン)"偉大なる父の御手(ファーザーズ・ハンズ)"ではなく,自前の篭手型魔法駆動媒体(ARMS)をベースにした複合魔法駆動機関(ドライブエンジン)だ。

    軽量で高速機動可能なように脚部ユニットの増設,衝撃吸収機構(ショックアブソーバー)を付けたライトプロテクターでの衝撃耐性の強化。
    そして旧武器保管庫で見つけたアミュレットを篭手と同化駆動させる事で,それの持つ機能――式効果増幅による魔法攻撃力の増強。
    1ヶ月程度の期間でこれだけ準備できたのは僥倖だろう。

    急造とは言え,1ヶ月にわたってコツコツ手を入れた複合魔法駆動機関(コンポジット・ドライブエンジン)だ,愛着も沸く。
    指輪(リング)型のそれは,俺好みのシンプルなデザイン。何処となくアイツのに似ているのは気のせいだ。

    一応譲り受けた"偉大なる父の御手(ファーザーズ・ハンズ)"を格納した指輪(ドライブエンジン)も填める。
    両方の手に2個ずつ指輪を填める事になるが,邪魔にはならない。
    一種の御守りみたいなものだ。

    ――御守りと言えば。
    昨夜の実験で亀裂の入った試作魔鋼真球(コア)
    ハルのヤツが『御守り代わりにもってけよ』と押しつけたのを思い出した。
    昨夜着ていた作業服のポケットから取り出したそれは,表面全体に見事な魔導機構(駆動式群)を刻印された直径3cmほどの魔鋼球。
    しかし,その表面にはもう一つ,円周の半分に渡って亀裂が入っていた。

    昨夜の実験失敗の原因は,刻印のズレもそうなのだが,材質の不均一な状態がそれを助長していた事がわかっている。
    俺のいない三日間で,ハルは"もう一桁精度の高い魔鋼(ミスリル)を収斂してやる!"と意気込んでいた。
    三日後が楽しみだ,ロマは監督役兼サポートにまわるそうだ。

    『ハル君が心配なのはもっともだけど。気にしないでがんばってね』

    そう言ってロマは送り出してくれた。
    正直そう言われると少しやる気が出る。さすがに主席は配慮が違うな。

    そのときにハルが押しつけたこれ。解析済みでもう用がないと言えばそうなんだが。
    魔鋼で出来た真球。だが亀裂が入っている。

    しばらくそれを見詰めて,俺は寛大な心でハルの意を汲む事にした。
    ブレスレットを駆動・両手に展開した篭手型魔法駆動媒体(ARMS)は,俺の長年の相棒である万能整備ツールだ。
    ここから更に補助具(デバイス)を多重駆動展開する事で追加した装備が具現化する。
    が,今は純粋にツールとしての機能,物質格納スペースを使う事が目的だ。

    領域・展開(オープン)

    駆動式が光で描かれ,仮想空間が展開する。
    俺はその中に魔鋼真球を放りこむと領域閉鎖(クローズ)。これで篭手(ARMS)の中に格納した事になる。

    「じゃ,まぁ」

    時間を見ると,5時45分を回るところだ。

    「行くか。」


    そろそろ外に出よう。


     ▽


    学院に通う生徒の数はかなり多い。
    寮に入っているとわからない場合も多いが,通学者も結構居るらしい。
    知合いではウィリティア・スタインバーグがそうだ。
    彼女は市街地に立てた別邸から車での送迎が常らしい。王国貴族(上流階級)のお嬢様だしな。

    さて置き,ミコトは車を持っているらしい。
    まぁ以外といえば以外だったが,冷静に考えるとそんなに不思議なことではない。
    アイツはかなり多岐にわたって様々なスキルを習得している節がある。
    車両関係の各種免許も(コレ)だけでは無い気がする。


    寮を出て10分。
    時刻は大体6時くらいになるだろう。ミコトは来ているだろうか。

    寮の裏手に車庫はある。
    学院の敷地内とはいえ,ここは一般の学生は入ってこない場所だ。

    と,誰かが居た。
    黒っぽい俺と似たような戦闘服に身を包む小柄な影。ミコト――じゃないな。
    ミコトは黒髪。あの影は金色の髪だ…って。

    「おいおい」
    「あら,ケイン。おはようございます」

    そう仰ったのは,ウィリティア嬢だった。


     ▽


    「ウィリティアが俺達と行く生徒だったのか。」
    「ええ。追加募集の時に応募したから移動手段をどうしようかと思っていたのです。でも,ケインはこの1週間,演習に行くなんて一言も仰りませんでしたね?」
    「ロマとハルは1ヶ月前から知ってたし,ここ1週間は忙しかったからだろ。それに俺もウィリティアが合同演習訓練にでるなんて夢にも思わなかったしな。」

    それは,そうですがと不満げに肯定するが,ウィリティアは反論もする。

    「わたくしも同じです。戦闘に不慣れな貴方が実戦の演習に参加するなんて,誰に想像できますか」
    「まぁ,それもそうなんだよな」

    実際に最初は乗り気ではなかったのは確かだ。

    「俺が出来るのは自分の身を守る事と,装備の点検整備くらいだしな。精々邪魔にならないように逃げ回るさ」

    苦笑し,そう言う。ウィリティアはまだ納得しない。

    「? 戦闘訓練に参加していると言う事は,何かしら戦闘における術を求めているからなのでしょう? なんでそんなに非積極的なんですの?」
    「あぁ。」

    そうか,ウィリティアは俺が誘われて参加していると言う事を知らないんだな。ちょっと前なら被害者だ,と言うところだろうが…

    「まぁ,あれだ。俺は誘われたクチでね」
    「…誘われた? 実戦演習訓練に?」
    「そう言う事だ。まぁ気にすんなって」

    そう言って時間を確かめる。
    現在6時17分。さては――

    「アイツ,寝坊してるのか…」
    「あいつって…まさか。」

    たたたたたっ,とこちらへ向かって走る音が聞こえてくる。

    小柄な影。
    俺達二人と似たような黒系の戦闘服。
    アイツ専用のドライブエンジンが左上腕に見えた。

    「ごめんなさい!」

    そう叫びながら荒い息を吐いて膝に手を当て呼吸を整えるのは――

    「よ。昨夜なんて言ったっけ?」
    「う…わるかったわ…貴方もごめんなさいね…って」

    ミコトが顔を上げながら,傍に佇む彼女(ウィリティア)にも謝った。

    二人はハタと動きを止めて顔を見合わせる。
    俺は…そうだな,苦笑するしかないか。


    「ミヤセ・ミコト!?」
    「ウィリティア・スタインバーグ!?」


    同時に名を呼び合う。いや,叫び合うか。
    仲が良いのか悪いのか…やはり苦笑するしかないのだろう。


    「「なんで貴方がここにいるの!?」」


    訂正。仲,良いみたいだ。



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