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■52 / 1階層)  "紅い魔鋼"――◇序章◆
□投稿者/ サム -(2004/11/18(Thu) 07:17:47)
     ◇ 序章『始まり』 ◆


    始まりはいつも唐突だ。
    誰の下においてもそうなんだろう。きっとそうだ。でなければ俺が不幸過ぎる。


     ▽  △


    俺――ケイン・アーノルドは学院の魔鋼技科に席を置いて魔導工学を学ぶ学生。二十歳。
    第三過程生だ。

    実家は都市リディル南西部のスラム近くにある下町。
    オヤジはそこで魔法駆動機関――ドライブ・エンジンの修理工をしている。
    ドライブエンジンはこの文明の根幹を担う一要因だけあって,現代で生活するには欠かせないものだ。

    魔法駆動機関とはいっても多種多様。
    多数の企業が開発・販売している汎用性が目玉で特殊機能は一切つかない通常タイプから,軍の戦闘用まで種類を上げたら限がない。
    当然,通常タイプには装甲外殻など格納されているはずもなく…腕部装着タイプならば肘までのガード,腰部タイプならポーチ,頭部タイプならばバイザー型と,ほんのお飾り程度の機能しか持たない。
    逆に軍用…もしくは装甲外殻(アーマード・シェル)を手がけるドライブ・エンジンメーカーならば,それこそさっきも言った装甲外殻や特殊武装,身体補助・電子装置や人工精霊など,高度最先端の技術が詰めこまれることになる。
    もっとも,王国の厳しい管理の元に,と言う条件はつくが。


    俺が学院に入った理由――それは単に親父の命令だった。
    物心ついたときから既にドライブエンジンで遊んでいた俺は,当然のように親父を手伝いながら自然とドライブエンジンと関わってきた。
    魔導文明が重ねたその年月,培われた理論,複雑化する構造,仕組み。
    幼年期からそれを身につけていったらしい俺は,中等過程を学ぶための学校に通うまでにそれまでの技術を余すところなく吸収した。学べる範囲で、だ。

    親父曰く――"この機械馬鹿め…"

    言っている言葉は乱暴だが,そう言うときの親父の顔は苦笑。
    母親は「きっとうれしいのよ」何時もそう言って笑っている。
    俺もそうなんじゃないかと最近思うようになって来てる。…まだ半信半疑だが。


    転機は高等過程を終了する時期になった時のことだ。
    当然のように進路の決定時期にさしかかってきていて,周囲の雰囲気もぴりぴりし始めた…そんな時期。俺は親父の後を継ぐ気だったから,担当の教官にもその旨伝えていた。

    が。
    親父はある日突然親父がこう言った。

    「学院に行け」

    晴天の霹靂とはこの事だろう。
    学院――王国立総合学院は国内でも最高峰の学術機関だ。
    おいそれと入学できる所じゃない。
    通っていた高校でも受ける奴はまず居ない。

    散々渋った俺は(当然だ)どうやら親父が勝手に出願したらしい事を知り,腹をくくった。
    元々失うものはないのだし…と勉強らしい勉強をする事もなく試験当日を迎えた。

    魔鋼技科を選択した(というかされていた)俺のテストは,ペーパーと実技。
    どんな試験をやらされるのかとビビっていた俺は,しかしその試験に拍子抜けした。

    …ガキの頃から散々繰り返していた作業。
    その確認みたいなものだったからだ。

    ペーパーを易々と書き上げた俺は,実習でもドライブエンジンの簡単な修理を終えて家に帰った。
    数日後届いた結果は合格。
    正直あんなもんで良かったのか,と言う思いが強かった事だけ印象に残っている。

    ――以来3年が経つ。
    寄宿舎に入ってからは,長期休暇の際の数日の帰省以外は家には帰らない日々を送っているが,充実した講座や実習,新鮮で新しい知識を学ぶ日々に不満はない。いや――

    第二過程の後半期が過ぎるその時までは,なかった。
    なかったのだ。


     ▽  △


    それは昨年の秋。
    寒さも深まり,そろそろ冬も到来するだろうと言うそんな時期だ。

    そいつはやってきた。

    『…やぁ。暇そうだね』

    魔鋼技科の実習室で,自分のドライブエンジンをいじっていた俺にそう声をかけてきたのは,戦技科の印章をつけた女子だった。

    偶然にも俺はその女子生徒を知っていた。
    学院内の寄宿舎に入っている学生は,隣りの部屋の住人と組みになる習しがある。
    当然俺もアホな奴とユニットになっている。…それはさて置き。

    その女は,先日相方が突然学院を辞めて一人になった奴のはずだ。
    男子寄宿舎で人気があったらしい蒼髪の女子が辞めたと言う話が流れ,一時は騒動になりかけたらしい。
    こっちだけだったが。


    『作業中すまないとは思うんだけど』

    暇そうだね、という前言を撤回せずにいけしゃあしゃあと言うそいつは,そう前置きして腕輪をこちらに差し出してきた。

    結構使い込まれたドライブエンジン。それも――

    『…軍用タイプ? どうしたんだ、コレ』

    見たことのないタイプだが,形式などからみて恐らく軍用だろう。
    この手のドライブエンジンはめったに目にかかれないモノだ。親父の工房でも年に2,3回しか目にしなかった。
    当然俺の興味はそっちに向かう。

    『良ければ、ちょーっとみてほしいんだ。専門じゃないからメンテとか良くわかんないし…大事なものだからしっかりしときたくて』

    そう言って,奴はニコリと笑った。

    …別に笑顔に負けたわけじゃない。
    その腕輪に興味があった…ただそれだけだ。そのはずだ。
    なんとなく腕輪を受け取ってしまった。

    が。
    それがまずかった。
    それが,今から約半年前の,そいつとの出会い。

    『あ、"私"は――』

    つい,とそいつの右手が笑顔と共に差し出される。

    『"私"はミコト。ミヤセ・ミコト。…これからヨロシク,ケイン・アーノルド君』

    思わず握手を返してしまった俺は,決して白紙に戻せない契約書にサインを交わしたに違いない。
    そう。
    後戻りなんて選択肢はもうなくなっていたんだ。



    >>続く
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