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■68 / 6階層)  "紅い魔鋼"――◇五話◆
□投稿者/ サム -(2004/11/22(Mon) 21:53:16)
     ◇ 第五話 前編『戦闘訓練』 ◆


    学院に所属する学生の一部――とりわけ優秀な連中は,未来の宮廷師団を目指し戦闘訓練を受けるもの達がいる。
    軍への仕官を目指すもの,単に趣味や身体機能向上を目的としている連中も若干混じってはいるようだが。

    戦闘の基本は剣術,拳銃術,格闘術…そしてそれ+αの魔法格闘戦術。
    魔法格闘戦術の格闘は,前述の三つの戦闘方法を含む全ての"戦闘方法"だ。
    魔法格闘戦術――すなわちそれは,魔法を使った対人攻撃方法。
    現代の局所戦闘において,もっとも有効な戦術の一つでもある。

    魔法は魔法駆動機関(ドライブエンジン)がなければ使えない。
    これは当然の決まり後とにして秩序であり、破られることのない真理だ。
    EXにおいてのみ適用される事のないモノではあるが。

    魔力に反応して様々な効果を発生させる魔鋼(ミスリル),そしてその威力や方向性を具体的に指向・制御する駆動式群――魔導機構。
    それによって作られた様々な形態をした道具を持つ事により,人ははじめて魔法使いになる事が出来る。

    魔法を発生させる道具は,一般に2種類ある。

    一つは魔法駆動機関(ドライブエンジン)
    これは王国で開発されたもので,魔法発動媒体であるミスリルの中に閉鎖式循環回廊という特殊な結界を形成し,その中に使用者の身体機能および魔法発生を増幅させる補助具(デバイス)を格納しているものだ。
    補助具(デバイス)には"魔力変換炉"が組みこまれており,それが機械化(マシンナライズ)された魔導機関を含む補助具(デバイス)と連動する。
    これによって,従来では魔法発動媒体とは区別して持ち運ばなければならなかった"身体機能を増幅する"補助具をも格納し,さらに魔力発動・反応性を利用しその性能を飛躍的に向上させることに成功した。

    …しかし,ドライブエンジンを駆動するには多くの魔力と制御しきるだけの技術(スキル)がなければならない。
    実を言うとドライブエンジンの効果は絶大だが,一般に汎用性があるか――と言われると実は余りないというのが実情だったりもする。
    市販されているドライブエンジンは,必要最低限の機能しか保有されていないばかりか戦闘行動はできないようプロテクトがかかっている。
    つまりはそう言うことだ。

    しかし現在,ドライブエンジン技術とそれを粒子化・格納する為の閉鎖式循環回廊の技術を保有する国家は王国のみ。公開もしていない。
    王国工房と,そこに提携する関連企業は日々他国の諜報機関とその技術をめぐって争っていると言う。


    さて。
    もう一つは,今を持って全世界でまだまだ親しまれている"従来型"だ。ドライブエンジンは"次世代型"と区別されている。
    従来型とはミスリル加工された武器防具,または装飾具などを示している。
    剣であり,盾であり,モノによってはナックルガードや拳銃と言う種類もあるらしい。指輪や腕輪,ピアスや首飾りなども多くある。
    普段の生活ならばアクセサリー類でも十分だが,戦闘ともなるとやはり実用的なものを好むのはいつの時代も同じだ。

    武器・防具に駆動式を付加する。
    組みこめる式数こそ少ないものの,誰にでも使用可能な上に汎用性も高い。
    武器で言うならそれ自体の形状が"攻撃の意味"を現しているので精神集中も比較的容易だ。
    防具もまた然り。
    訓練を詰めば誰にでも使用する事が出来るようになるこの従来型(ベストセラー)。しかしこれにもデメリットがないわけではない。

    その汎用性の高さと扱いやすさから,犯罪に使われると洒落にならない被害を出す場合も多々ある。
    それは何も従来型――ARMSと呼ぶ事にする――に限った事ではなく,王国内でも魔法駆動機関(ドライブエンジン)を使った犯罪が増加傾向にある。
    もっとも,これに関しては王国軍に属する特殊部隊が対処してはいるらしい。

    さて従来型(ARMS)だ。
    汎用性が高く,戦闘に適する形をしている。戦闘魔法との相性も良い。
    ともなると――戦闘訓練でも当然のように用いられることになる。
    当然,魔法の威力に制限(プロテクト)はかけられるだろうが。

    それは,王国立総合学院でも変わらない。


     ▽  △


    カリキュラムにある戦闘訓練――それは主に戦技科が中心となって行われている。
    戦技科の第三過程生――全59人(一人は辞めてしまった)は総合ジムの中にある結界に囲われた戦闘訓練用のスペースに集まっていた。

    訓練は何も戦技科のみで行われるはではない。
    他学科からも希望者が参加するのが通例だ。例をあげるならば魔法科など。彼等は紛れもない天才集団で,研究過程生の中には王国工房や各企業に混じって研究・実験を行う者まで居る。


    そんな彼等が目指す高み――その一つに宮廷魔法師がある。
    宮廷魔法師は宮廷師団に属するもの。
    その知名度は全世界にも通用するもので,反体制に対する大きな抑止力とも言われている。

    宮廷師団は騎士,戦士,魔法師,魔法使い,賢者などと名称と役割が別れている。
    魔法師と魔法使いの違いは,前者が戦闘に特化した者であるのに対して,魔法使いは主に駆動式や魔導機構の研究・開発を行う研究者だ。
    ちなみに賢者は,国や各国との調整をつかさどる外交官みたいなもの。
    師団とは言え,戦争するだけが能ではない。


    話を戻そう。
    魔法科のみならず,戦技科も似たようなものだ。将来"宮廷師団"になりたいと思っているのはこの59名の中にも少なくはない。そして――
    実際に届くかもしれない,くらいの才能と努力は彼等にはある。

    さて戦闘訓練だ。
    戦技科と合同で行うのは大抵は魔法科。
    しかし,今日は何時もと違った。

    59名の戦技科に対して,魔法科からこの講義を希望する人数は21名。
    "いつもより1名"多かった。


     ▽  △

    ミヤセ・ミコトの意識は,実はそのとき既に遥か彼方(今日の昼食)へと飛んでいた。
    まぁいつもの事と言ったらいつもの事だったのだが,今日は何時もよりボーっとしていた。
    彼女には他にも色々と懸案事項があるらしい。

    …通常,この戦闘訓練は戦技科59名+魔法科20名の全79名で行われている。
    つまり一人あぶれるわけだ。
    それがミコトだった。

    ミコトは第二過程後半期から第三過程にかけて意識を切り替え,"目的"に向かって歩き出す決意をした。
    それは行動にも反映し,それまでは平均的な成績だった彼女は時が過ぎる毎に頭角を現し始める。
    学業・魔法・戦闘訓練。
    そして交友関係…つまり,生活のほぼ全てにおいて彼女は変わったとも言える。

    戦闘訓練などはそれが顕著に表れた。
    類稀な才能でもあったのか,何時しか誰にも彼女に勝つことが難しくなるほどだ。元々強かったが。
    そんなわけで,ミコトは毎回の戦闘訓練を出向中の軍の担当教官と行うのが常だ。

    ――前回までは。


     ▽  △


    ――ん?

    そこに渦巻く落ち着かない雰囲気にようやくミコトは気づいた。
    何時もと様子が違うようだ、辺りがざわついている。

    …今日は少し早めに切り上げて食堂に行きたいんだけどな――

    3週間後にある野外戦闘実習訓練。
    普段と同じならば良かったのだが,不確定要素と変な符合が絡み合って色々と胸騒ぎがしている。
    自分の感を信じるならば,何か事件が起る可能性がある――少なくとも0ではない。
    そう直感が告げているのだ。

    そんなわけで,ミコトは手早く教官を捕まえてボコそうと思っていた。
    今期担当になっているのは30半ばのオジサマ系の人で,かなり良い人だ。
    三本先取でストレート勝ちならば,多少早く切り上げたいと言っても許してくれるだろう,何時もそうだし。

    そう目論見ながらきょろきょろと辺りを見まわして――

    「いた。…あれ?」

    その教官は一人の女性徒と話している。

    「あんな可愛い子いたっけ…?」

    一目見て美人だとわかった。
    身長,体重は自分と同じ位だろうか。瞳は緑で,そして綺麗なショートカットの金髪だ。
    仕草に,こう。何とも言えない気品とでも言うのだろうか。が漂っている。
    教官と二言三言言葉を交わした彼女はミコト(こちら)に気づくと,その足で歩いてきた。
    そこで気づいた。
    先日ここですれ違った彼女だろう。

    ――うん,美人だ。

    正面きって向かい合うとわかる。
    それは単に,外見だけではない事が。

    溢れる自信――それを感じる。


    ―――っ。
    思わず顔がニヤリと歪む事をミコトは止める事が出来なかった。
    無意識のうちに体と意識が臨戦態勢を整え始める。

    「先日はどうも。」
    「お邪魔いたしますわ」

    軽い挨拶。
    だが――その実二人は高まる昂揚を感じてもいる。

    対峙する。
    その間約3m。測ったかのように二人はエモノを構えた。
    どちらも長さ1.5mほどの魔鋼(ミスリル)製の棍だ。

    二人にはもう,それ以外のやり取りは無用と言う事を直感というか本能で感じ取る事が出来ていた。
    つまりは,そう言う事だ。

    「いくよ」
    「いきますわよ」


    二人の持つ,訓練用に能力をプロテクトされた棍型魔法駆動媒体(ARMS)が同時に光を発した。





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