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■77 / 10階層)  "紅い魔鋼"――◇七話◆前
□投稿者/ サム -(2004/11/25(Thu) 21:59:55)
     ◇ 第七話 前編『歴史の表裏』 ◆
     

    「…ありがとな。恩に着る」
    「どういたしまして。何かあったら相談にのるからね。」

    初めてケイの"ありがとう"を聞いた私は――これからやろうと思っている事への不安が,ちょっとだけ…軽くなった気がした。

    ケイ、こっちこそありがとね。
    ちょっとの間――行って来ます。



     ▽  △

    都市ファルナ。
    魔鋼産業で成立つ工業都市として名高い。
    王国の主生産品である魔鋼――ミスリルを量産する工場群を郊外に持ち,都市に住むおおよそ3割の人間がそれに関わっている。
    人口はおおよそ300万。
    学術都市リディル,王都と連なる衛星都市の一つだ。
    そして,その主産業の魔鋼(ミスリル)の名を取ってこうも呼ばれている。


    ――魔鋼都市ファルナ。
    錬金術師達の街,と。

     ▽

    現代人は皆魔法の恩恵に預かっている。
    王国に暮す人間は,そのほぼ全員が魔法駆動機関――ドライブエンジンを所有し,王国から与えられる魔力制御印によって魔力を扱う術を得る。
    魔力をドライブエンジンに通わせる事で,人は限定現象――魔法を駆動させる事が可能になる。
    魔法は人の編み出した技術である――この一文は,魔法が制御された力という証にして"人間が等しく所有する技術である"と言う事を明言している。
    魔導文明の局所的解釈は以上。

    またもう一つ,現代人には技術がある。
    それは科学技術。古代遺産から復元した旧文明の技術だ。
    魔導文明が無(厳密には無ではなく魔力)から現象を発生させるのに対して,旧文明の科学は現象自体を解析し知恵のみで現象を近似・復元するものだ。
    その大元を成す最大の科学が――電力。
    古代の文明は電力を作るために小型の太陽を炉の中に作ったり,大量の油を燃やして水を沸騰させ,生じた水蒸気でモーターを動かし発電する――と言った方法をとっていたことが判っている。
    世界各国にそれを調査する機関があり,"地中から発見されるシェルターのような都市群"のコンピュータを解析して情報を得た結果だそうだ。
    ――ちなみに。
    旧文明でもっとも古い年代のものは,今から億単位過去の年月のものらしいとの事。真偽は定かではないけど。
    ともかく,電力と科学技術は文明に役に立つ様々な道具をもたらした。

    王国の地下からも古代文明の遺産が数カ所見つかっているらしく,その年代はとてつもなく古いものらしい。
    古代文明は,発見される年代によってその技術レベルは様々と言うのが通説だが,王国地下に埋まる古代都市跡はその中でも特に高度な文明だったらしい事がわかっている。
    無論国家機密だが,他国に比べて王国の科学技術は1歩も2歩も先を行っている事から容易に推測は可能だ。

    魔鋼(ミスリル)を鍛えるにも一役買っている。
    都市ファルナは魔鋼生産を主な産業としていて,それを支えている技術の一端が科学。

    古代文明の遺産たる科学が王国の歴史に関わり始めたのも.これまた1000年前の戦乱の直前らしい。
    ――妙な符合が重なる。

    当時の戦乱の終結は,王国が邪竜を退けたと言う事で終わっている。
    が。

    民間伝承などでは

     突如現れし邪竜を雷帝が強大な光の柱を召還し,葬り去った

    と言う事になっていた。

    ――その伝承の発端。

    それがここ,魔鋼都市らしい。

     ▽

    ミコトはリディルからこのファルナまでを車で移動,一日近くを運転して訪れた。
    朝出たのに夜中につき,道中は一人でずっとつまらなかった。何度ケインを連れてこれば良かったと後悔しただろうか。
    しかし彼は学院で研究のための色々準備を行っている最中。相談された上に発破をかけた手前,強引に連れ出すわけにも行かず渋々一人でここまでやってきた。


    今回の遠出の発端は,学院の一講座野外実戦訓練だ。
    まぁこれ自体はぜんぜん問題無い。過去数回参加しているし演習場所も何時も通り。
    しかし。
    この都市から派遣されてくる史跡調査団の調査日と実戦訓練の日程がぴたりと重なっている事にミコトは気づいた。
    たったそれだけの事なのだが,どうにも彼女の第六感がそれに過敏に反応するのだ。

    何かがある,と。

     ▽

    ミコトは,半年ほど前に巻き込まれた…と言うか勝手に首を突っ込んだ事件で,一人の友人の秘密を知ってしまった。
    その結果と言うわけではないのだが,彼女は一人で歩いていく道を選びその翌日には行ってしまった。
    現在彼女の行方はようとして知れず,ただ元気でいてくれる事だけを祈る日々が続いている。

    しかしそれを良しとしないのがミヤセ・ミコトだった。
    被っていた仮面を外して目的の無かった学院生活を見なおし,将来の道の先でもう一度彼女に会い,その身勝手な考えを根底からぶち壊すためだけに行動を始めた。無論自分こそが身勝手などとは夢にも思っていない。
    ともかく。

    ミヤセ・ミコトは行動を始めた。
    友を作り,自分を磨き,交友を深め,情報を集める様々な方法を作る。半年間で可能な限りそれを行い,そしてこれからも続けるつもりだ。

    "夢は大きく果てしなく"

    それが今掲げている目標だったりしている。ちょっぴり具体性に欠けているのは気づかない振りだ。


     ▽


    そんな中,何度目かの合同実戦訓練の時に想定外の事件に出くわす事があった。
    詳細は割愛するが,そのとき以来ミコトは自分の関わる物事に関しては,出来うる限りの情報を集め,どんな事態にも対処できるよう心構えをする事にした。

    今回も例に漏れず事前の様々な情報を集めていた。
    その際に見つけた小さな小さなこの史跡調査団の調査日。
    そして,この街にいる友人に調べてもらった調査団の構成メンバー。

    出てきた名前が魔鋼錬金協会。

    はっきり言って,眩暈がした。


    よりによって。

    ――魔鋼錬金協会(フリーメーソン)が絡んでるなんて

    ミコトは,調べれば調べるだけ深まる事態の混迷さに一人で頭を抱えていた。

     ▽

    魔鋼錬金協会。
    これは1000年前の王国を半壊させた(・・・・・)原因を作った偏執狂的魔導学団体の事だ。王国史でも習う。

    ミコトは思考の中で資料を反芻する。

    1000年前。
    王国軍は"突然出現した"邪竜"により北側山脈の麓――現在ランディ―ル平原と呼ばれているまで草原地帯まで撤退を余儀なくされていた。
    そこで行われた決戦により,一人の英雄の命と引き換えに邪竜を滅ぼす事で王国軍は辛うじて勝利する事が出来た。
    しかし話はそこでは終わらない。

    そもそも,邪竜が出現したのは王国の中央平原の一都市。しかも都市中央部からだったと言う。
    当時の詳しい資料は結構各地に残っている。事の詳細を調べるのも比較的容易だった。
    なにしろ,リディルの総合学院(我が母校)の書庫にもその資料は残っていたのだから。

    歴史書,文献を読み進める上で,一つの組織が関わっている事を記した手記が見つかった。

    それが――魔鋼錬金協会。
    正式名称は知らないが,知識と魔鋼(ミスリル)の研究の為なら非人道的な研究も厭わないと言う,偏執狂的研究者共の集まりだ。
    いわば秘密結社(フリーメーソン)
    彼等の信者は何時の時代,何処にでも存在する。
    現代でさえそれは存在していると言う――。


     ▽


    その事を教えてくれた友人は,入れ違いにリディルに向かったらしい。知らなかったが今はリディルに住んでいるみたいだ。
    彼女は私と同郷で,都市リディルと都市ファルナの中間にある小都市で同じ学校に通っていた先輩・後輩(私 ・彼女)の間柄だ。
    "後で連絡をいれるので,後日改めてお会いしてくれますよね?"と言うメッセージを残していた。

    私もそれには賛成した。
    流石にこれ以上の捜査は任せる事は出来ない。
    私は慎重を期し,昔の友人(後輩)には"ただ気になっただけだから"というに留め,その調査を強引に終えさせた。最ごまで"探偵の元で色々仕事を手伝っているから役に立ちます"と言って食い下がっていたが,これ以上は続けさせたくなかった。
    言うまでも無く危険が伴うかもしれないらだ。

    さて,目下の問題は魔鋼錬金協会(秘密結社)
    彼等はこの1000年ほぼ何も活動していない。
    これは各方面から得たその筋の情報から確認済み。
    相当無謀で無茶で非人道的な研究が行われていたのは戦乱時までで,それ以降は王国の厳しい監視下に置かれたらしい。

    歴史書や当時からの様々な情報媒体によると,大多数の彼等は王国各地に分散・潜伏し,個人で研究を続ける傍ら再集結・再結成を果たす事を目的としていたようだ。
    それは果たされたわけだ。

    何しろ,魔鋼錬金協会と言う名の公的組織が今現在存在するのだから。


     ▽


    彼等が彼等(フリーメーソン)だと言う事実は一般に知られてはいない。

    王国自体がその事実を隠蔽している節がある。
    その最も大きい理由が,彼等の非常に高い功績と考えられた。
    それに魔鋼錬金協会が秘密結社(フリーメーソン)と知らずに入会している一般人も多い事も関係していると見当をつけている。
    巧みにその真実を隠蔽して構成された"魔鋼錬金協会(秘密結社)"
    現代にもたらした彼等の最大最高の功績――それは。
    王国主産業である魔鋼(ミスリル)の量産体制を完全の整えた事にある。

    科学技術と魔導技術の融合。
    その最たる成果がこの魔鋼産業と言うわけだった。


     ▼


    事の起こりは比較的近年だ。
    今から50年前に始まった第一次世界恐慌の際,その経済危機的状況を乗り切るための一つの策として,最も需要のある――しかし供給の極めて少ない"魔鋼(ミスリル)"の製造を提案した組織があった。
    王国に提出された発案書ともう一つの書類――それは秘密裏に受理され,ファルナ近郊に最初の魔鋼収斂工場群が建設された。
    古代文明の科学,現代文明の魔法を用いた革新的な技術の融合により確立された魔鋼産業は,世界に先駆けて行われた。
    結果は言うまでもなく成功に終わる。
    王国の負うリスクはかなり大きな物になったが,高い見返り(ハイリターン)に賭けた結果,世界恐慌を無傷で乗り越えた――どころか利益さえ上げた――数少ない国家の一つになった。
    それ以降も,全世界に対する魔鋼(ミスリル)供給のおおよそ30%を王国が占めている。
    そして。
    王国の負ったリスク,それが――魔鋼錬金協会(秘密結社)の黙認だった。


     ▽


    沈黙してきた今までの50年,彼等は一体何をしてきたのだろう。
    私の第一の疑問はまずそこにある。

    リディル(学術都市)と違い,ここはいわば工業都市。
    流石に中心市街は高度に発達しているけど,魔鋼錬金協会のある郊外は比較的自然の風が多い。
    丘にでも上れば彼方に灰色の魔鋼収斂工場群が望めると言う事だ。
    街を歩きながら当座の行動方針を考える。

    一番の目的は,彼等の本意だ。
    1000年近くを沈黙しているとは言っても秘密結社(変人達)秘密結社(変人達)
    何か良からぬ企みをしているのではないかと疑う気持ちは生まれるし,また私の直感が告げる。

    "こいつらだ"と。

     ▽

    直感はあくまで勘だ。
    確信の持てる裏を取るまでは私は納得はしないしするつもりも無い。
    そのための行動で,それゆえの私だから。納得行く行動をとった末に,満足の行く結果を掴む。掴み取る。
    結果も大事だけど過程も重要。

    私は全てを勝ち取るつもりなのだから。

     ▽

    市営の図書館にやってきた。
    とりあえず情報の収集が先決だから。調べる項目は三つ。

    一つは近年の彼等(魔鋼錬金協会)の動向。もしかしたら何か動きがあったのかもしれない。
    一つは1000年前の戦乱のきっかけ――過去のリディル砦を破壊して王国軍をランディ―ル平原まで撤退させたと言う"邪竜"とやらの真実。国家機密に該当する事項だろうけれど…ここも学院と同列の古代からの歴史が連なる場所。何かしら残っているかもしれない。
    そして,それらの関わりがどの様に在るのか。

    時間は少ないし,危険は少なくない。



    「こう,燃えるものがあるのよね」

    歴史書を高く積み上げ,机に座る。
    本に顔を埋めてニヤリ、と表情を歪めた。

    「やったろーじゃないのさ」

    戦闘開始。
    勝負はまだ始まってもいないが。





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