Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■441 / 8階層)  フェイス1ロキ4
□投稿者/ パース -(2006/10/16(Mon) 21:55:33)
    冷静に考えてみたら、陽は初めて人を殺していた。


    (なんていうか、よくドラマかなんかでやるような、人を殺したせいでそのことにとらわれたりするあれって、俺にはないんだな)


    陽は自分の右手を見てみる。
    先ほど自分が殺した相手、喋り方に特徴のある氷刀グラナステッグの所持者、そいつの血が、べったりと手に付いている。
    右手だけではない、体中ほとんど、返り血を正面から浴びてしまったので真っ赤に染まっている。
    だがしかし、陽はただシャワーでも浴びたいな、と思っただけだった。


    (なんてゆーか・・・・・・・・・とにかく臭いし、汚いし、気持ち悪い・・・・・・・・・どこでもいいからさっさとシャワーか、その前に着替えを探すか・・・・・・・・・)


    陽は血で真っ赤に染まったまま、フラフラと住宅街に向けて歩き出していった。










    蛇口をひねると、熱湯が雨になって噴き出してくる。
    陽はそれを正面から受け止め、血を洗い流してゆく。


    (少し、熱いな・・・・・・・・)


    陽はシャワーを浴びていた、ただし見知らぬ民家で、勝手にだが。


    どうやら自分が幽霊みたいになってしまったのは間違いないらしい、この民家に住む住人達は、陽が勝手にドアを開けて入ってきたときも、そのまま勝手にシャワーを浴び始めたときも、文句一つ言ってこなかった。


    (そこにいる人には話しかけたり、触ったりすることが出来ないのに、その場にある物体、物や道具には触ることが出来るんだな・・・・・・・・・なんなんだこれは?)


    陽はシャワーを浴びたまま、思索を続ける。


    (とにかく、あのヴァルキリーに会ってからずっと、わけがわからないことばかりだ)


    ゲイレルルという名前のヴァルキリー、彼女はほとんど何も説明をしないまま陽の胸をその槍で突き刺し、気がつくと陽はこのわけのわからない世界に存在していた。


    (とにかく、アイツに何かされて俺がここにいるって事は間違いない、それから)


    さっき、陽と戦った相手、あの大刀の男は言っていた、


    『本当に知らないんっすか?僕らにはあのヴァルキリーさんが使ってるこの変な空間を作り出す能力が、ヴァルキリーさんに斬られたとき使えるようになってるんっすよ』


    あの『力』、あの異空間を作り出す『力』、それがあのヴァルキリーに斬られたとき、使えるようになっているとあの男は言っていた。


    (それはつまり・・・・・・・・あいつはヴァルキリーから何か説明を受けていたって事か?そして俺もヴァルキリーに斬られたってか刺されたから、あの『力』を使えるのか?)


    こればかりは、確認しないことにはどう判断することも出来ない。


    (そもそも、確認しようにもやり方がわかんねぇし・・・・・・・・・・・・う・・・・・・・)


    いつまでも熱湯を浴びていたらのぼせてきた、そろそろ上がろう。


    陽はシャワーを止め、風呂場から上がって着替え(これも、そばにあった服屋から勝手に拝借した)を手に取り、血で汚れた服の方は、しばらく迷ってからゴミ箱に捨てることにした。


    (それにしても、この世界での規則はどうなってるんだ?)


    そのまま進み、食卓に勝手に入っていく、そこでは、一家団らんの食事風景が広がっていた。


    (・・・・・・・・・・・・・・・ッツ!!)


    ドクン、と心臓が高鳴る。
    なんてことのない風景、なんてことのない平和・・な風景、それなのに、心臓が、どうしようもなく、早鐘を打つ。


    「う・・・・・・・うう・・・・・・・ううううう・・・・・・・・!」


    その食卓で、満面の笑みを浮かべて父親と母親とに囲まれた5歳くらいの少年が、ふと、ジュースの注がれたコップを取り落とした。


    ―――ガシャーン。


    聞こえるはずのない音が聞こえた気がして、そして、脳の奥底に封印したはずの記憶が蘇っていく。










    「うるせぇぞ!糞ガキ!!」


    コップを落としただけで、陽は殴られた。


    「ああもう、あんたって子は!なんてことをしてくれるのよ、また服が汚れるじゃない!掃除はあんたが一人でやりなさいよ!!」


    母親は、ヒステリックに叫ぶだけで、陽を助けたりはしなかった。


    「おい!お前の不始末だろうが!片付けをさっさとやれよ!!」
    「何言ってんのよ!そもそもあんたがすぐに殴らなきゃこんなひねくれた子供には育たなかったわよ」
    「俺の責任だってのか!?ガキが欲しいと言ったのはお前だろうが!!育児は全部お前がするというから認知してやったってのに!!」
    「なによ!!!」
    「なんだ!!!」


    そして始まる大夫婦喧嘩、父親はすぐに手を出し、母親はすぐに道具を持ち出す、包丁を取り出したこともあった。


    最近では珍しくもない、離婚寸前の夫婦、そしてその弊害を受ける子供、そんなある意味わかりやすすぎる構図が陽の子供時代だった。
    陽にとって両親とは、ただ食料を与えてくれるだけの存在で、優しさや、愛情、そんなものを教えてくれる存在ではなかった。


    そしてそんな最悪の幼少時代があっさりと終わりを迎えたのは、陽が八つか九つの頃だった。


    ―――交通事故だった。


    たまたま、両親ともに機嫌が良かったのか、その日は一家で温泉にでも行こうと車で家族旅行に向かったその日、対向車線をはみ出した大型トレーラーに衝突して、あっけなく両親は死んでしまった、トレーラーの運転手もその際に運悪く即死。
    陽はたまたま後部座席でシートベルトをしていたため、軽い怪我だけで済んだのだった。


    たったそれだけのこと、新聞にはよくある交通事故、子供がたった一人生き残ったということでしばらくはマスコミが騒いでいたが、それもすぐに消えていった。


    そして陽はたった一人で社会に放り出された、陽を迎えてくれる親戚など存在せず、そんな少年をただで助けてくれるほど社会は優しくなかった。


    そして、色々なことがあったものの陽は今も生きている、陽と同じ年代の少年達よりはいくらか発育不良かも知れないが、まぁ最低ランクは守っているだろう。


    (・・・・・・・・・・くそっ、さっきの血と、この風景のせいで、嫌なことを思い出しちまった・・・・・・・・)


    両親は、陽の目の前で血だらけで死んだ、トレーラーに潰されたのだから原形を留めているはずもなく、そしてそれを幼少の陽はその目で全て見てしまった。
    さっき、シャワーを浴びたとき、姿見に映った自分の姿は、まるでその時の両親のようで、


    ―――ゆっさゆっさ


    (・・・・・・・・・!?)


    「お兄ちゃん、もしもーし!おにいちゃーん、聞こえてますかー!?」


    とても至近距離に、女の子がいた。


    「もしもーし!!魂抜けてるんですか!?幽体離脱なんですかー!!?ちょっとー本気で魂入ってますかー!?」
    「って、うわ!!」
    「きゃ!!」


    いきなりのことに、驚いた陽と、同じくいきなり反応した陽に驚いた女の子とが同時に悲鳴を上げる。


    「もー・・・・・・・・・・・いきなりなんなんですかー?さっきからずっと話しかけてるのに、全く反応しなかったくせに、いきなり驚くなんてずるいですー」
    「へ?さっきからって?」
    「さっきからはさっきからですよー、ずーっとお兄ちゃんの前で跳んだりはねたりしてるのに全力で無視するなんてひどいですーお兄ちゃんは外道です、鬼畜ですー」
    「ちょ、ちょ、ちょっと待った!」


    もしかして、さっきからずっと、陽が自分の古傷を自分でえぐっている間中、この女の子は陽の周りでうろちょろしていたのだろうか。


    「もしかして、君はずっと俺のことを見ていたのか?」
    「そうですよー、さっきお兄ちゃんがお風呂から上がってきたあとぐらいから、ずーっと話しかけてたんですよー?それなのに全く反応してくれないんだから、フェンちゃんを呼んじゃおうかと思っちゃいましたー」


    なんてことだ、自分は放心状態のあまりこんな女の子がすぐそばに接近してきても全く気付いていなかったらしい、これは致命的だ、色んな意味で。


    「それよりお兄ちゃん、お腹すいてませんかー?」
    「え?」
    「お腹ですよー、あーゆーはんぐりー?です」
    「あ、ああ、空いてるよ、かなり」


    よく考えたら、この世界に来てから何も口にしていない、時刻は既に八時、気がつけば外はもう暗くなっていた。


    「それじゃ、私がご飯を作ったげるので、お兄ちゃんはその辺で座って待っていて下さい」


    そう言うと女の子トットッとキッチンの方へ歩いていってしまった。


    「ちょっと待った!君は一体・・・・・・・?」
    「私ですかー?私は桐野 狼亜(きりの ろあ)15歳、今が食べ頃の女の子ですよー?」

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