Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■540 / 24階層)  ロキ編 The last battle
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:40:27)
    二人の剣が交わり、全てが暗転し、光に包まれ、何も見えなくなったそのとき、
    二人の意識は別なところに存在した。


    『止めろ』


    その言葉が、二人の頭の中に響いた。


    (なに!?)
    (え!?)


    それと同時に、自分たちの周囲が、これまでいた異空間ともさらに違う場所、それまでいた場所ではない「どこか」にいることに気付き、また自分の体が全く動かない、それどころか自分の体そのものが無くなっていることに連続して気付く。


    (え?ここ、どこ!?)
    (なんだ、一体、これは?)


    陽と影美が思った疑問、それぞれに答える声があった。


    『ここは、神剣レーヴァテインの中、意識のみが存在する場所にいる、君たちは今、意識体としてその中に入り込んだのさ』


    声に、姿はない。
    また、陽と影美も、それぞれの声は聞こえているのに、それぞれもう一方の姿を捉えることは出来なかった。


    (あなた、誰??)
    (お前は・・・・・・・・・まさか)


    『陽、君ならわかるだろう、僕は君が使っていた神剣レーヴァテイン、それの中に存在する人格さ、一度だけ、君とは意識を通い合わせたことがあるね』


    (あんたは、あの時、力を貸してくれた・・・・・・・・)
    (何を言っているの・・・・・・・・・?)


    『影美、君も知っているはずだ、君が持つ魔剣ロキにも、内在する人格があったのだから』


    (・・・・・・・・・・・何で・・・・・・知って!!)


    『君たちにはこれ以上戦ってもらうわけにはいかなかった、これから、その理由も含めて君たちには聞いてもらいたいことがある、少し、長い話になるけど、ここは外とは時間の流れる速さが大きく違うから、外のことは気にせずに聞いて欲しい』


    そして「神剣レーヴァテイン」、それに内在する人格による、長い話が始まった。










    初めは、全ての創世から。

    原初の神、氷の大巨人、「ユミル」。
    彼の体から始まりの神「オーディン」は生まれた。
    「オーディン」はやがて兄弟である「ロキ」らと共に「ユミル」を滅ぼす。
    「ユミル」の体はやがて大地となった、これが神々の世界「アースガルズ」となる。

    そして神々の世界の完成。

    「アースガルズ」は、「ユグドラシル」と繋がり、九つの世界を一つとした。
    「アースガルズ」には、様々な神々が集まった。
    やがて神々は夫婦となり、子をなして、神々の数は増えていった。
    「オーディン」、「ロキ」もまた、数々の神々の親となる。

    しかし、いずれくる未来があった。

    「オーディン」は、ある一つの未来、「ラグナロク」の到来を予見していた。
    「ラグナロク」は、決定された、回避出来ぬ未来、全ての終末。

    その時、「ラグナロク」の中心となる、ある一人の神がいた。

    「ロキ」はいつの時も変わらず、奔放であり続けた。
    しかしある時、彼はその賢さゆえに気がついてしまう。
    神が、絶対ではないことに。
    神が、全てではないことに。
    神が、完全ではないことに。
    自分たちが作る、神々の世界が、所詮は偽りであることに。

    「ロキ」は、その事実を神々に見せつけるために、もっとも美しき神、「祝福されし者」、全ての者の寵愛を受けた神「バルドル」をその知略をもって殺す。
    そしてロキは、神々の宴の席で、幾体もの神々を相手に、神々の欠如を、秩序の消滅を、全ての神の無能さを、嘲笑い、非難し、罵倒した。

    それによって「ロキ」は永遠の地獄に捕らえられる。
    「ロキ」は永劫の苦痛にさいなまれながら、泣き叫んだ。
    どうして、自分はただ誤りを指摘しただけなのに。
    どうして、自分はただ過ちを正しただけなのに。
    どうして、自分はただ真実を知らせたかっただけなのに。

    永劫にも近い苦痛の中で、「ロキ」はある結論に達する。

    自分の考えを受け入れて貰えぬのなら、今ある秩序など無意味だ。
    それならば全ての秩序を破壊し、新たなる秩序を作り出せばよい。

    そしてついに、「神々の黄昏」、「世界の終末」、「ラグナロク」が訪れる。
    巨人族と、冥府の亡者達は「ロキ」を先頭に「アースガルズ」へ攻め上る。
    「オーディン」は「フェンリル」に飲み込まれ、「フェンリル」は「オーディン」の息子、「ヴィーザル」により殺される。
    「トール」は「ヨルムンガント」を殺すものの、毒液を浴びて死んでしまう。
    「ロキ」もまた「ヘイムダル」と相打ちになり死ぬ。
    そして、最強の炎の巨人「スルト」は「ロキ」から渡された「レーヴァテイン」をもって「フレイ」を殺すが、「スルト」は戦いの傷により死を覚悟、自らの命を持って世界を消滅させる。

    そして、「ユグドラシル」は消滅し、わずかの神と人とを残して、世界は滅んだ。
    それは、遥か昔の話。










    長い話が、ようやく一区切り迎えた。


    (それで、全てが終わったその後も、フレイヤ達は魂の収集を続けている、と?)


    『その通りだ、まず、君たちに知っておいて欲しいこと、その一つ目は、「神は絶対ではない」ということだ、もし神が絶対であるなら、そもそもこんな事は起こらなかっただろうし、むやみな戦いも起こらなかっただろう』


    (それは・・・・・・・・・確かにその通りね)


    『次に二つ目、「世界は一つではない」ということ』


    (・・・・・・・・・一つ、じゃないのか?)


    『そもそも考えてみてくれ、スルトが放った炎によって「世界は滅んだ」んだよ?それなのにここには君たちが普通に生活する世界が存在している、これはおかしな事ではないかい?』


    (なるほど・・・・・・・・・・)


    『フレイヤ達は「ユグドラシル」が消滅した際に出来た、「世界と世界の隙間」に入り込み、そこを伝ってこの世界に降り立ったんだよ、多数の神具と共にね』


    (はた迷惑な・・・・・・・・・・・・)


    『そして、君たちに知っておいて欲しいこと、その最後、戦いを止めさせた理由でもあり実はこれが一番重要なことなんだが―――――』



    ―――――『「もし、君たち二人のうち、どちらか一人でも今の状態で死ねば、この世界は完全に消滅する」』



    (!?)
    (!?)


    一瞬、沈黙が落ちた。


    (な、何を言ってるんだ!?)
    (そうよ、なんで世界が消滅とか・・・・・・・!)


    『残念だが、これはれっきとした事実だ、まずは影美、君だが、君は今魂の半分を「魔剣ロキ」の中に取られているね』


    (え、ええ、そうよ・・・・・・・・それが、なに?)


    『もし、今影美が死ねば、その「魔剣ロキ」の中に入っている魂も大きく壊れ、しまいには「魔剣ロキ」自体が完全に消滅するだろう、もしそうなったら、僕は自分の力を抑えることが出来なくなり、その力はやがて使役者である陽をも破壊して世界に漏れ出す、そうなったら世界はもはや完全に燃え尽きるまで永遠の炎に包まれるだろう』


    (は・・・・・・・・?)
    (なん、で・・・・・・・・・?)


    『僕こと、「神剣レーヴァテイン」と僕の兄である「魔剣ロキ」とは、同じロキによって作り出された神具だ、そして、「魔剣ロキ」は、あまりにも力が強すぎる「神剣レーヴァテイン」の力を抑え、封印する役割も持っているんだよ』


    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)
    (・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!)


    もはや、言葉にもならない。


    『そして、今の状態で陽が死ねば、の話だが、それは簡単だ、スルトの時と同じ、「魔剣ロキ」が「神剣レーヴァテイン」を抑える力を失っている今、「神剣レーヴァテイン」の力は止められない、同じく世界を焼き尽くして全てが消滅する』


    (なんで、私の剣が、レーヴァテインを抑えられないってのは?)


    『僕の兄でもあり、君の剣の中に内在した人格、あれそのものが封印だったんだよ』


    (!!!!!)


    『もう一度言う、「もし、君たち二人のうち、どちらか一人でも今の状態で死ねば、この世界は完全に消滅する」、と』










    全ての真実が語られたあと、レーヴァテインは、静かに語り出した。


    『君たちに、お願いが二つある』


    (・・・・・・・・・)
    (・・・・・・・・・)


    『これは、こんな事は君たちに頼める立場じゃないことはわかっているんだが、フレイヤ達を止めてくれ、彼女達にはこんな、終わってしまった物語を続けるような真似をこれ以上させたくないんだ』


    返事は、無い。


    『・・・・・・・・・・・・・・・すまない、君たちに、そんな余裕はないのだったな・・・・・・・・・、君たちには自分の身を守る以上の事を、している暇は――――』


    (ああいいよ、やってやるよ)
    (いいわ、やったげましょう)


    返事は、同時だった。


    『なぜ?君たちにメリットなど何もないのに・・・・・・』


    (メリットならある、あんたの言葉が正しいなら、「ヴァルハラの館」そこには魂が集められているんだろう?俺の目的はそこにいる女の子の魂を連れ帰る事だ、そのついでにそいつ、フレイヤって奴を倒してやるよ)
    (同じく、その「ヴァルハラの館」には、私の剣の中身も、一緒に行ったはずでしょ、それを見つけて剣の中に戻せば、少なくともどっちかが死んだだけで世界が滅ぶなんて言うことは起こらないでしょ)


    『・・・・・・・・・・ありがとう、それから、もう一つだけ、最後のお願いがある』


    (何だ?)
    (何よ?)


    『全ての戦いが終わったら、僕を、「神剣レーヴァテイン」を「魔剣ロキ」と共に、完全な眠りにつかせて欲しい、本当のことを言えば、僕はもう何かを壊す事なんて嫌なんだ』


    (ああ、その程度のことなら)
    (わかったわ)


    『ありがとう、これから君たちを元の場所に戻す、そこにはもうすぐヴァルキリーがやってくるはずだ、まずはそいつを倒して、「ヴァルハラの館」の鍵を手に入れて欲しい』


    その言葉が終わるか終わらないかのうちに、
    二人の意識は元いた場所へと戻された。










    (わかる?)
    (・・・・・・・・・ああ)


    どんな理屈なのか、陽と影美は剣を触れ合わせた状態で、お互いの考えが互いに聞こえる状態になっていた。


    『それは、僕を媒介にして二人の意識体が共鳴しているからだよ』


    よくわからないことを、レーヴァテインが言う。
    なにはともかく、声を出すことが出来ない状況下で、お互いの声が聞こえるのはいいことだ。
    今現在、陽と影美の二人は、影美の力により偽物を地面の上に作り出し、本体はレーヴァテインの力により光をねじ曲げて外からは見えないようにしていた。
    この状態になって、既に数分が経っていた。


    それにしても、と陽は思う。


    (本当に、ヴァルキリーに勝てるのか?)


    しばらくして、影美から返事があった。


    (んー・・・・・・なんとかなるっしょ)
    (そんなアバウトな・・・・・・・・・)
    (なーに言ってんのよ、私と、あんたのコンビなのよ?楽勝らくしょ・・・・・・・・・・っとと)


    影美が、フラッと、急によろける。
    陽は、腕を掴んで、体を支えてやった。


    (・・・・・・ありがと)
    (どういたしまして、そんな状態じゃ先が思いやられるな)
    (何よ!?あんたがぶっ刺してくれたおかげでしょうが!あんただって似たような状態のくせに!!)
    (お前よりはまだマシだ)
    (うー・・・・・・・・!)


    『二人とも、仲がよろしいのは良いことだが、どっちも限界が近いだろう?』


    (実は・・・・・・・・まぁ・・・・・・・・)
    (仲がよろしいとか言うなっての・・・・・・・・・でもきついものはきついかも)


    そもそも、二人共がついさっき死闘を演じていたのだ、その傷は全く治っていない。
    血もずいぶんと流してしまった、このまま時間だけが過ぎていけば、どうなるものか。


    『・・・・・・・・こういう手は、あんまり使いたくないけど、二人とも、神具の力を解放するんだ、そうすれば、いくらか傷は治る』


    (いや、そんなこと言っても私の場合、この剣の中に入ってる人格がどっかいっちゃってるから・・・・・・・・・)


    『その代わりに、中に入っているのは君自身だよ、やろうとすればいつでも解放できるはずさ』


    (そうなの?やってみる・・・・・・・・・)


    そしてしばらくすると、影美の黒剣は、巨大な湾曲刀へと変化した。


    (やった、できた・・・・・・・・!)
    (・・・・・・・・俺の場合は、どうすれば?)


    『うん、君の場合も大丈夫、今は「魔剣ロキ」がすぐ側にあるから、ある程度なら僕が制御できるよ』


    (よし・・・・・・・・!)


    そして、陽も神具の能力を全解放。
    真っ赤な刀身と波打つ刃の『炎神』が現れた。


    (ねぇねぇ、その剣、名前なんての?)
    (『炎神』だよ、そっちは?)
    (『影月』なんかこの曲がり方が月っぽいじゃん)
    (なるほど・・・・・・・・ッ!)


    『・・・・・・・・・二人とも、来たよ、僕はこれからレーヴァテインの力の制御に集中するから、返事しないと思うけど、頑張って』


    レーヴァテインの声が、頭に響くと同時、ついに、空間を割ってヴァルキリーが現れた。
    その特徴的な槍をみればわかる、『槍を持って進むもの』、ゲイレルルである。










    ゲイレルルは、しばらく周囲を見回したあと、二人の偽物に近づいた。


    (・・・・・・・・・・・・・準備は?)
    (・・・・・・・いつでもどうぞ)
    (おっけー)


    ゲイレルルが、そこにある偽物の内の片方に近づき、槍を振り上げた。


    (それじゃあ・・・・・・・・・・)


    ゲイレルルは槍を振り下ろし、その槍は、影美の作り上げた偽物を貫通し、地面に突き立つ。
    ゲイレルルの表情が驚きに染まった直後。


    「行くよ!!」
    「ああ!!」


    二人は駆け出した。










    「はぁっ!!」
    「らあっ!!」


    ―――キィン!


    さすがと言うべきか、不意を打ったにも関わらずゲイレルルは、二人の一撃を槍一本で同時に受け止めた。


    「なぜ・・・・・・・・・お前達が生きている?」
    「へへ・・・・・・・・・・・!私達に死なれると、困る人がいるらしいんで、ね!」
    「理由は色々だ!ともかく、俺達はこれ以上あんたらの遊びに付き合うつもりはない!!」


    一瞬、ゲイレルルが力をゆるめるが、それと同時に陽と影美は後ろに下がった。
    次の瞬間、とてつもない速度で振り回された槍が先ほどまで二人がいた位置を薙ぎ払った。


    「影美!下がれ!!」


    さらに、影美から見て、ゲイレルルと陽の姿が視界から消えるのはほとんど同時だった。
    陽とゲイレルルが同時に超高速移動をしたのだ。
    陽は、ゆっくりと流れる時間の中で普通に動く、それと同じように、ゲイレルルもまた緩やかな時間で普通に動いて見せた。
    ゲイレルルの狙いは、影美だったらしい、ゲイレルルは槍の穂先を影美に向け突進しようとしていたが、それの前に陽は体を滑り込ませる。


    (ってか!『炎神』の状態でこの能力がどのくらい続くのか、今まで一度もやってないからわかんねーぞ!!)


    残念ながら、返事はなし、そして悠長に待っていられるだけの時間もない。
    どうやら、解放していない状態よりは長く高速移動を続けることが出来るらしく、既に10秒以上動けている、あとは自分の力を信じるしかない。
    ゲイレルルの槍が、陽の頭目掛けて突き付けられる、陽はそれに刃先を合わせて槍を受け流す、陽はそのままゲイレルルに斬り掛かろうとしたが、槍の柄で受け止められる、陽はそれに力を込め、つばぜり合いに持って行こうとしたが、それより早く、ゲイレルルは槍をクルリと回転させた。
    そして、クルリと回転した槍の刃先は、陽の足下を狙っていた。


    (しまっ!足払い!!!)


    思わず、足を浮かせてしまい、続けてきた石突きによる一撃で、陽は為す術無く後ろに吹き飛ばされた。


    (やばい・・・・・・・やられる・・・・・・・・!!)


    陽が顔を上げると、ゲイレルルは、槍を振り上げ、今にも降り下ろそうとしていた。


    (死――――!?)


    ゲイレルルが槍を振り下ろすその直前、陽の体を黒いものが包み込み、影の中へ引きずり込んだ。


    (なんだ!?)


    ゲイレルルの一撃は、結局やってこなかった、陽は何が起こっているのか、事態を把握できずに、黒い影の中で、じーっと待つ。


    ゴポリ、と、ようやく陽は影の中から解放された。


    「ゲホッ!ゲホッ!」


    よくわからないが何か気持ちの悪い物が口の中に入った気がして思わず咳き込んだ陽の視界に入ってきたのは。


    (シッ、静かに!)


    人差し指を唇の前で立てる、まさに「静かに」の動作をした影美だった。
    影美は、剣を陽の剣に触れさせていた。


    (うん、君が強いのはよーくわかったよ?でもねぇ・・・・・・・・・・)


    影美が、顔をずずい、と近づけてきたため、陽は思わずのけぞる。
    ここで初めて、陽は高速移動の力が切れていることに気付いた。


    (あのねぇ?私達はいま、仲間でしょ?だったら勝手に先走るな!!!)
    (え?・・・・・・・・ゲフッ!!!)


    とんでもなく痛いボディーブローが陽にクリーンヒットした。
    影美が容赦の無い一撃を陽に送ったのだ。


    (確かにね、君は強いよ、1対1ではもう絶対にやりたくないって思うくらい速いし、今の君なら私より強いよ、でもね、言っておくけど今私が助けなかったら君は死んでたよ?)


    陽は、さっきまで自分がいた場所、ゲイレルルの方角を見て、そして驚愕した。
    そこでは、何百、いや、何千体という数の影の兵団が一斉にゲイレルルに襲いかかっていた。
    しかし、もっと凄いのはゲイレルルの方だった、たった一人に対して、襲いかかってくる数千の兵団を全て、一太刀貰う間も与えずに斬り倒しているのだ。


    ―――ズシャッ!!
    ―――バシュッ!!
    ―――ズドゴシャ!!!


    ほんの数秒の間に、10体以上の影がボロ屑となって吹き飛ぶ。
    ゲイレルルを囲む数千の影は、瞬く間に数を減らしてゆく。


    (相手がむちゃんこ強いなら、こっちは数で攻めろってね、ただし足止めが精一杯だけど)
    (なんで、そこまで・・・・・・・・・・・・)


    影美は、気楽そうにしているが、操っているその数は数千体だ、簡単なわけがない。
    そんなことまでして陽を助けるのは、どうしてなのか、そう問うた。


    (だから、仲間だからに決まってるでしょ)
    (仲間・・・・・・・・・・・・・・・・)
    (そう、同じ目的のために一緒に戦うからこそ仲間って言うのよ、勝手に一人で突っ込んで、勝手に死なれちゃたまんないわ、しかもその命には世界が懸かってると来てる)


    影美は、さらにずずい、と陽に顔を近づけた、唇をチョイっと出せばキスが出来てしまいそうなほど、ほとんどもうゼロ距離だ。


    (いい、よく聞いて!あいつが、あのゲイレルルが言ったのよ、「もし、我に勝てる奴がいるとすれば、それは我と同じ力を持つレーヴァテインの使役者のみ」ってね、つまり!君なら勝てるって事よ!!)


    そして、ドンっと、影美は陽を突き飛ばした。


    (いい?私は君を信じるよ、だから!君も私を信じて、あいつには私がこれからとびっきりの隙を作ってやるから、君はその隙にアイツを倒す!いい!?)
    (・・・・・・・・・・わかった)
    (よし!)


    影美は剣を構えて立ち上がった。
    陽もそれに習い、剣を構えて立ち上がった。










    ゲイレルルは、今、とても高揚していた。


    (これほどの戦いは、ずいぶんと長い間縁がなかったからな・・・・・・・・・・・!!)


    これまでも、魂収集のための戦いの中で、ヴァルキリーに反旗を翻した者はいたが、そのどれもが大した力も得ぬうちにヴァルキリーに戦いを挑み、まさに瞬殺で終わるようなもばかりだった。
    しかし、今回は話が違う。
    神具を解放状態まで持っていく者も珍しければ、持っている武器も揃って凶悪な物と来ている、これほどの戦い、楽しまずにいられようか。


    「さぁ!人間達よ、我を倒せばここから出ることは出来るぞ!!いつまで隠れているつもりだ!!さっさと姿を現せ!!!」


    向こうは、どちらも神具を解放状態にある、つまり2対1だ、それならばこちらもそろそろ全力で解放するべきだろうか。
    そう思い、解放することにした。
    ゲイレルルの周りには、もう既に残り千体ほどしか影の兵隊は残っていなかった。


    「神具・『ガゼルリヨートス』!!!『千烈ちれつ』全能力解放!!!」


    そして、ゲイレルルが、一振り、槍を振った、それだけで、
    千体近くいた影の全てが、一撃で消し飛んだ。


    「さあ、どうした!出てこんのか!?ならばこちらから・・・・・・・・・・・」


    それ以上言い終わるよりも先に、敵、人間の女が姿を現した。


    「レーヴァテインの所持者はどうした?怖じ気づいたか!!」


    そう言って、言い終わると同時に加速する。
    ゲイレルルの能力、それは、先も行ったとおり、加速。
    ただ、陽と違うのは、いくらでも加速状態を持続でき、また連続での発動も可能なこと。
    そして、『千裂』の能力は、これまた単純。


    ゲイレルルは、人間の女に向けて、高速で槍を振るった。
    その瞬間、幾重もの槍撃が、女だけではなく、その周辺の地面までをも粉々にして、吹き飛ばした。
    『千裂』、その名の通り、一度振るだけで、千の裂撃を刻み込む。


    「フン、この程度か!!」


    しかし、すぐにも、また別の女が現れる、それは瞬く間に、ゲイレルルを取り囲んだ。


    「また、同じ事を繰り返すつもりか!!!」


    そう言って、槍を一度、振るう。
    たったそれだけで女が作り出した偽物の影が、まとめて千体近く消し飛ぶ。
    そうして、全てを吹き飛ばそうとしたところで、


    「なっ!!」


    影が、そこかしこから溢れ出し、ゲイレルルを含んだ、この空間全てを、闇が埋め尽くそうとしていた。
    それは瞬く間に、視界の全てを埋め尽くし、なにも見えなくなる。


    「ちっ!!厄介な!!」


    ゲイレルルは、ただ闇雲に、全方向へ向けて『千裂』を放ち、影を消し去ろうとするが、『千裂』では影を払うことは出来なかった。
    結局ゲイレルルは影を払うことを諦め、何が起こっても対処できるように、全方位に警戒して、ただ時が過ぎるのを待つ。


    「ッ!!」


    敵の攻撃が来た、それも、足下から。
    多数の影が触手状にうねり、ゲイレルルの足に絡みつこうとする。
    ゲイレルルは影の茨を槍で全て切り払うが、すぐに新たな茨がゲイレルルの足に絡みつこうとする。


    「チッ!!」


    ゲイレルルは、影を払うことを諦め、大きく跳躍し、上空へ逃れる。
    その瞬間、ゲイレルルを覆い隠していた影は、全て下方へ移動し地面を覆い尽くす、そしてそれらの影は一斉に刃となってゲイレルルに襲いかかった。


    「初めからこれが狙いか!?」


    上空では、いくら速く動けようとも、そもそも身動きが取れない。
    無数の影で出来た枝や茨や刃が、全てゲイレルル目掛けて殺到する。
    しかし、ゲイレルルは、冷静に、槍を構え。


    「なめるなっ!!!」


    裂帛の気合いと共に数千の槍撃を地面を覆い尽くす影にに向けて解き放った。
    いくつもの枝が、刃が、ゲイレルルの槍に打ち砕かれ、消し飛ぶ。
    ゲイレルルの槍に撃ち抜かれた影は、次々と霧散してゆき、ついには地面が見えるまでに、吹き飛ばされた。


    「フン!この程度で我を追いつめられると思うな!!」


    そう言って、ゲイレルルは、地面に着地しようとして、地面が丸ごとグニャリと歪み、


    ―――完全にバランスを崩した。


    「なっ!!!!」


    次の瞬間、影を突き破って陽が現れる。


    「今ッ!!!」
    「ああ!!!」


    陽は、完全に体勢を崩したゲイレルルを、深く、完全に斬り裂いた。










    影美がとった戦法、それは相手の目を騙すことにあった、要するに、地面全てを影で覆い尽くし、その上に影で偽物の地面を作ったのだ、そしてゲイレルルが降りようとした場所のみを着地の直前に消滅させ、地面に着地する体勢だったゲイレルルは、完全にバランスを崩した、そういうことだった。


    ―――ザシュッ!!!


    陽の大剣が、完璧にゲイレルルを捉え、その胸を深々と斬り裂いた。


    「ガッ、ガフッ!!!」
    「やった!?」
    「まだだぁ!!!」
    「なっ!」


    ゲイレルルは確実な致命傷を負っていたが、その状態で動き、陽を吹き飛ばした。
    ゲイレルルは、槍を杖変わりにしながらも、なんとか立っていた。


    「ぐ、ゲホッ!まさか、まさかここまでやるとは!思いもしなかった!」
    「ここまでだ、ゲイレルル、諦めて「ヴァルハラの館」の鍵を寄越せ!そうすれば命までは取らない」
    「もう、これ以上、無意味な戦いは嫌でしょう?お願い、諦めて!」
    「ふ、ふふふふふ!我を倒すだけでなく、お前達はこれから「ヴァルハラの館」にまで攻め上ろうというのか?」


    ゲイレルルは、笑い、血を体中から噴き出しながらも、槍を構え直した。


    「ええ、その通りよ!だからこれ以上は止めて!!本当に死ぬわよ!?」


    しかし、ゲイレルルは、影美の静止など気にも止めず、言った。


    「ふふ、「ヴァルハラの館」には、我よりも強い者がまだまだいるぞ?それでもゆくか?」
    「ああ、返して貰わなきゃならない物があるからな」
    「ええ、ある人からの頼み事をかなえるためにも、絶対に」
    「そうか、よかろう、ならば我が全力を持って、貴様等がヴァルハラに行き着く資格があるのか、試してやろう」
    「!?」
    「!?」


    陽と影美は、ゲイレルルから放たれた、今まで感じたこともないほどの殺気に思わず、剣を構える。


    「ゆくぞ!我が最強奥義!!受けてみよ!!!」










    ゲイレルルは、体中から血を噴き出しながらも、槍を構え、大きく振りかぶった。
    陽と影美は、互いに、残る全ての力をそれぞれの剣に込め、待ち構えた。


    「『千裂』・『無閃槍技』!!!!!」


    ゲイレルルは、超加速化された状態で、一振りで千の槍撃を与える『千裂』を千回、全身全霊を賭けて解き放った。
    千かける千、百万の槍撃が、陽と影美目掛けて襲いかかる。
    陽と影美は、一瞬互いに見つめ合ったあと、


    「・・・・・・・・・」
    「・・・・・・・・・」


    ―――コクン。


    頷きあった。
    陽と影美は、剣を交差して、


    「「負けるかぁああああああああああ!!!!!!!!」」


    二つの力、陽の『炎神』に集う白い炎が、影美の『影月』に集う黒い影が、一つに集まっていく。
    そして、


    「「『炎神』、『影月』、『影炎双剣』!!!!!」」


    二つの力が、同時に、一つの巨大な力として、解き放たれた。
    百万の槍撃と、白と黒の炎と影とが、正面からぶつかり合った。


    「ハァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
    「おぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
    「やぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああ!!!!!」


    炎と影が、無限にも近しい槍と、正面から、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    ぶつかって、
    そして、




    ―――――槍が、折れた。










    炎と影とが、槍を飲み込み、へし折り、その後ろのゲイレルルを消し飛ばして、そして、完全な静寂が訪れた。




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」




    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・勝った?」


    「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・たぶん」




    ――――やったぁ!!!!!!



    影美が、歓声と共に陽に抱きつき、陽はそれを支えることに失敗して、地面に倒れ込んだ。

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