Release 0シルフェニアRiverside Hole

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■538 / 22階層)  ロキ編 決戦
□投稿者/ パース -(2006/11/25(Sat) 22:33:31)
    「げほっ・・・・・・・・・げほげほっ・・・・・・・・!」


    目が覚めると同時、体中の痛みで思わず咳き込む。
    当たり前だ、影月の時にいくらか回復したものの、所詮「いくらか」だ、フェンリルにやられた傷全部が回復したわけじゃない。


    (・・・・・・・・・・・・・・・無銘刀・・・・・・・・・)


    頭の中で呼んでみるが、半ば予想通り返事はない。
    手元を見つめて武器を呼び出す、現れたのは最初の頃の黒い剣、『影月』ではない。


    (借りが出来ちゃったなぁ・・・・・・・・・・)


    あの時起こった出来事、それは、無銘刀が影美の魂の半分を吸い取り、そして無銘刀の中の誰かが影美の中に入り込み、ゲイレルルに連れて行かれる、ということだった。
    無銘刀に意識を集中する、その中に、影美の半身が入っている。
    そのせいかどうか知らないが、いつもよりも動きがよい気がする。


    「・・・・・・・・・よっ・・・・・・・っと・・・・・・・・・・・痛たた・・・・・・・・」


    体中が痛いが、何とか起きあがる。

    さっきから感じている、近づいてくる気配・・
    ゲイレルルが最後に言っていたことを思い出す。
    確か、「魂を返して欲しければ最後の神具の所持者を倒せ」だったか。


    「それって、持って行かれたのが私じゃなくても返してくれるのかな・・・・・・・・?」


    黒剣もとい無銘刀もとい魔剣ロキ、まぁ呼び名などどれでもいい、それを構える。
    そして、
    影美の対面に一人の少年が現れる。










    陽は、異空間の中を歩いている。
    足やら頭やら、フェンリルにやられたせいで体中が痛いが、歩けないほどではない。


    (これで、最後・・・・・・・・・次の相手さえ倒せば、ロアを助けることが出来る・・・・・・・・・)


    陽は、剣を握りしめた。
    それは、先ほど、フェンリルと戦っていたときの大剣ではない、戦いが終わって気がついたら元の普通の剣の形に戻っていた。


    どうやら、『炎神』になるためには何かしら条件があるらしい、その条件はわからない―――が、陽の気持ちは一つだった。


    (どんなことがあっても、必ず勝つ・・・・・・・・)


    それだけのために、陽は歩いている。
    最後の相手の気配・・も、段々と近くなっている。


    「待ってろ、ロア」


    見えた、最後の戦いの相手。
    自分と、同じくらいの背格好、年齢も同じくらいであろう少女。
    そして、決戦が始まった。










    二人とも、はっきり言って無茶苦茶にボロボロだった。
    服はあちこち破れ、体中傷だらけの血だらけ、そして泥まみれだった。


    「あたしは影美、四野原 影美、魔剣ロキの所持者・・・・・・・・あなたは?」


    影美が、まだ少し離れている相手に対して言った。


    「陽、千里塚 陽、神剣レヴァンテインの所持者だ」


    陽は、影美に声を返す。
    影美が剣を構えていることに気付き、陽も剣を構える。


    「へへ・・・・・・・・・最後が、君みたいなわりとまともそうな奴で良かったよ、あたしがこれまで相手にしてきたのってみんないきなり戦闘になったのばっかりだったから、変な狼にも襲われるし」
    「俺もまぁ、似たり寄ったりだな」


    二人の目に宿るモノ、それは決意。
    軽口を言いながらも、決して退かない、という意思の表れ。


    「あたしは、どうしてもヴァルキリーに取られた物を返してもらいたいから、だから戦う」
    「悪いけど、俺も命を賭けても手に入れなきゃなんない物だから、退くわけにはいかない」
    「同じだね・・・・・・・・なら、しかたないっか」
    「ああ」


    そして、会話がとぎれて、二人が同時に動いた。










    二人は同時に動いた。


    影美の姿が影の中に没し、陽の姿がかき消える。


    「!?」
    「!?」


    驚いたのは、二人一緒だった。
    陽は、先ほどまで影美がいた場所に出現する。
    一瞬で、影美との勝負を決めようとした陽だったが、そうはいかなかった。


    「そこっ!!」


    影美は、頭上に陽が現れた事に一瞬驚きを見せたものの、すぐさま攻撃を開始する。
    直後、陽の足下から、無数の影の茨が突き出し、陽にからみつこうとする。


    「くっ!!」


    陽は、思わず後ろに下がろうとしたが、その背後からも影の枝が突き出す。
    それを避けられないと踏んだ陽は、剣に力を込める。
    すると、剣が光を放ち、それによって枝はいともたやすく切り落とされる。
    さらに、数本の茨を切り飛ばしながら陽が地面、つまり影美が潜む影を貫こうとしたが、陽の剣が地面に突き立つのと、影から影美が脱出したのは、ほぼ同時だった。










    「っ!『影兵』、行きなさい!!」


    影美は、影から脱出するとすぐさまに、影兵を呼び出す、影美の周辺の影が動き出し、兵隊の姿を作り上げる、その数30ほど。
    そしてそれらは、一斉に陽目掛けて殺到した。


    (・・・・・・・・こいつ、強い)


    30ほどの影達はすぐさま陽に接近、攻撃を開始するが、一体が剣を振りかぶった瞬間に斬り裂かれ、別の一体がそれを横から切ろうとして真っ二つ、さらに別な一体が足払いで転ばされそこにさらに別の一体が、また別の一体がやられてゆく。
    どうやら影兵では勝負にならなそうだ。
    その上、先ほどの能力、飛んでもない移動能力、それから剣が光ったあとこちらの影をやすやすと切り飛ばしたあれ、どちらも強力ではっきり言ってこっちの方が分が悪い。
    影美の能力は小技中心だ、大技では向こうのが強い。


    (だったら・・・・・・・・)


    影美はある考えを持って影の中に自分を沈み込ませてゆく。










    (うっとおしい・・・・・・・・・!!)


    さらにまた一体、斬り裂きその黒い体が消滅してゆく。
    先ほどから、明らかな雑魚を相手にしていたが、それらを全て『力』を使うことなく倒していた。


    (だが・・・・・・・・次はどこから来る?)


    しかし、相手、影美の姿がどこにも見えないことには先ほどから気がついていた。
    兵隊の数は残り5体ほどだが、それらが動くたびに影が出来たり消えたりするため、影美の居場所が特定できない。


    (兵隊が全滅すると同時に出てくるか?別にいつでもいい、こっちはそれを突破するまでだ!)


    また一体を斬り倒す、残り4体、そいつらは陽を囲むように移動する。
    例えどれほど弱くとも、四方から一斉に攻撃されればどうしようもないことは確実なので、陽は右後ろに移動しようとしていた影に肉迫、これを斬る。
    残り3体、2体が同時に動き、それにわずかに遅れて1体が動いた。


    「邪魔だ!!」


    正面の2体を輪切りに、残る1体を斬ろうとして、


    (―――――!?)


    その姿を見失った。
    その姿を探す間もなく、


    (―――――後ろ!?)


    本能的に位置を察知、ほとんど何も考えずに切り払う。
    そして違和感。


    (本体はどこだ!?)


    さらに陽の背後、つまり先ほど敵の姿を見失った方角にまた一体の兵隊が現れる。


    (なんだ?いつでも背後に出せるなら初めからそれをやればいいのに・・・・・・・・・!?)


    それもまた一刀のもとに両断――――しようとして、それが罠だと気付いた。


    「残念!ハズレ!!」


    陽がその影を両断した直後、先ほど違和感を感じた影、それの中から影美が現れた。
    陽は影を斬るために腕を伸ばした状態、つまり隙だらけ、それに対し影美が剣を構えて突っ込もうとした。


    「レーヴァテイン!!」


    陽は『力』を解放、影美のさらに背後を取った。
    そして、










    (かかった!!)


    影美のすぐ後ろに陽が出現するのを、影美は影の中から・・・・・、見ていた。
    今、陽が背後を取った物、それは影美が影を操作できる限界まで似せて作り上げた偽物だったのだ。
    陽がどれだけ強くとも、『力』を使った直後ならば、確実な隙が出来る。
    陽が、影美そっくりの偽物を斬り裂いた、


    (―――――もらった!!!)


    瞬間、崩れ去った影美そっくりの影も含めた、影美が操作できる全ての影から、一斉に陽目掛けて刃が飛び出した。


    ―――ズドドッ!!


    「ぐうっ!!!」


    それらの刃は、確実に一瞬油断した陽の足を次々と貫いてゆく、これで陽は地面に縫いつけられた。
    影美が、確実に絶対のトドメを、さそうとしたその瞬間、陽が影の枝を掴んだ。


    「捕まえたぞ・・・・・・・・!」
    (・・・・・・ッ!しまっ!!)


    どれだけ、姿が見えなくとも、影美が操作している直後、その影の中には、影美自身がいる。
    陽が剣を地面に突き刺そうとし、影美が影から脱出しようとした、しかし今回は、陽の方がわずかに早かった。


    ―――ザシュッ!!


    初めて、影美の影から黒以外の色をした物が流れた、影美の血だった。


    「うぁっ!!!」


    影美は影から脱出しようとした直後を捕まり、右の肩に深々と剣を突きたてられた。
    影美は無理矢理陽と自分との間の影を操作し、壁を作り出し、それによって何とか距離を取った。
    十分な距離を取った直後、壁を解除すると、陽は動いていなかった。


    「・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・痛ったいわね・・・・・!」
    「・・・・・・・・・・・・・・・・・クソッ・・・・・・・・・お互い様だ・・・・・・・!」


    影美はそれに向かって文句を言うと、陽は返事を返してきた。
    陽は両足を穴だらけにされ、影美は右腕、つまり利き手が使い物にならない。
    威力なら陽が上、しかしスピードは影美が勝る、『力』を使えば陽の方が早いが、その分反動で大きな隙が出来る、技の手数なら影美の方が圧倒的に多い。
    体格的な差はほとんど無い、陽は同年代に比べて少し背が低く筋力が無い、逆に影美は同年代女性よりは背もいくらか高く、筋力もある。


    どちらも、かなりの傷を負ってはいるが、ほぼ互角の戦いだった。


    「ったく・・・・・・・・・女に手を挙げるのに、全く躊躇しないなんて見上げた根性ね!」
    「足をズタズタにして動けなくするなんて、せこい手を使う奴に言われたくはないな」


    ついでに、口の言い合いも互角。
    しかし、どちらもここで止める気は、毛ほども無かった。


    「行くぞ!」
    「返り討ちにしてやるわ!」


    二人の激突が再度始まった。










    二人の激突は、既に5回を越えた。


    陽が突撃し、影美がこれを迎え撃ち、数回の交差の後、離れる。
    互いにもう手は出し尽くしていた。
    陽は単純に威力とスピードを瞬間的に上げるのみ、しかし反動が大きいため連続して出すことが出来ず、『力』で追いつめても能力が切れた瞬間手数で圧倒される。
    影美は手数こそあるものの、一発一発の威力は低い、そのため陽を極限まで追いつめてもその直前に『力』によって突破されてしまう。
    ようするに、どちらももはや『力』は決定打になっていなかった。


    残るは、双方共に、肉体と精神と技術。
    どちらがより長く、肉体を動かし続けていられるか。
    どちらがより強く、不屈の精神を持ち続けていられるか。
    どちらがより巧みに、相手の動きを読み、考えを看破し、相手より早く、一太刀でも多く傷付ける、その技術を持っているかどうか。
    これはもはや、そういう戦いだった。


    二人はどちらももうズタズタのボロボロ、その状態で対峙しているのはある意味滑稽ですらあった。
    これ以上、長く戦いが続けば、どのみち出血多量で二人とも死んでしまう。
    だからこそ、二人がそのとき考えたことは、全く同じものだった。
    すなわち、


    (次で・・・・・・・・!)
    (・・・・・・決める!)


    それは、決着の意志。










    そして二人は同時に動いた。
    影美は、これまでと違い、自分から陽目指し突き進む。
    陽は、これまた先ほどまでとは違い、不動のまま佇む。


    「はぁぁぁああああっ!!!」


    影美は、陽と自分との間に影の壁を作成、視界を塞ぐと同時、4つに分裂した。
    むろん、本体はただ一つである。


    そして、陽はそれでも動かないままだった。
    陽の剣は光っている、だがまだ『力』は使っていない。
    無行の位のまま、すぐ前に壁が出現したときも、さらに3つの影美がその壁の左右、上部から現れたときも、動かなかった。
    三体の影美、それらが左右と頭上から同時に剣を振り下ろす。
    それが当たる直前、ようやく陽は動いた。
    剣を前に突き出し、頭上からの一撃を受け止めると同時に半歩後ろに下がり、左右の攻撃を回避、力をわざと緩めると正面の影がたたらを踏んで前によろける、それを見送ってその後ろに蹴り、残りの2体に蹴りの体勢から回転斬り、3体まとめて斬り飛ばす、そしてその全てが偽物。
    それはわかっていた。


    陽の剣はいまだに光っている、いや、その輝きは先ほどからどんどん増していった。
    先ほどの壁が消失、その先にいた影美は剣をただ横に垂らしているだけ、ではない、こちらも剣に黒い影、それがどんどんと集まっていった。
    陽の剣は光を放ち、陽はそれと同時に駆け出す。
    影美の剣もまた黒い光、光を飲み込む闇が溢れ出し、それと同時に駆け出した。
    光がはじけ、闇が溢れ出す。
    二人の距離が狭まってゆく。


    ―――10メートル、
    ―――5メートル、
    ―――3メートル、
    ―――2メートル、
    ―――1メートル、


    「はぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!」
    「うぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!!」


    二人の剣が正面からぶつかり合い、闇が爆ぜ、光が吹き荒れ、


    (――――――――――――――――――――――――――――!!!)
    (―――――――――――――――――――――――――――――ッ!)
    (―――――――――――――――――――――――――――――ァ!)




    ―――そして、何も見えなくなった。

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